発売日: 1982年9月20日
ジャンル: パンク・ブルース、カウパンク、ゴシックロック
カオスと退廃の果てに——The Gun Clubが深化させたゴシック・ブルースの美学
1981年のデビューアルバム『Fire of Love』で、パンクの攻撃性とデルタ・ブルースの荒涼とした哀愁を融合させたThe Gun Clubは、翌年に2ndアルバム『Miami』をリリースした。本作は、前作の生々しい衝動をさらにダークに、より退廃的に発展させた作品であり、のちに「ゴシック・ブルース」とも呼ばれる独特のジャンルを確立した。
プロデューサーには、The Crampsのギタリストキッド・コンゴ・パワーズをバンドに迎え、The Birthday PartyやNick Cave & The Bad Seedsにも通じる不穏で神秘的なサウンドスケープを作り上げている。
『Miami』では、前作よりもスローテンポで湿った雰囲気の楽曲が多くなり、よりストーリーテリング的なアプローチが強まっている。ジェフリー・リー・ピアースのボーカルはさらに呪術的で、まるで南部の廃墟で悪魔に取り憑かれた吟遊詩人のような狂気と哀愁が漂う。
タイトルの「マイアミ」は、陽光あふれる楽園を象徴するものではなく、むしろその裏側にある犯罪、腐敗、暴力、霊的な恐怖が渦巻く暗黒都市としてのマイアミを表現している。音楽的にはデルタ・ブルース、ロカビリー、カントリーの要素をより前面に出しつつ、そこにパンクのエネルギーを加えた「カウパンク（Cowpunk）」的なサウンドを構築している。
全曲レビュー
1. Carry Home
アルバムの幕開けを飾る楽曲で、カントリー的なギターのフレーズと、ジェフリーの物悲しいボーカルが絡み合う。まるで南部の荒野をさまよう亡霊のような雰囲気を持ち、のちのオルタナ・カントリーやゴシック・カントリーの原型とも言える楽曲。
2. Like Calling Up Thunder
ガレージ・ロック的な疾走感を持つ楽曲。エコーのかかったギターとシャッフルするリズムが、荒涼としたアメリカ南部の風景を思わせる。
3. Brother and Sister
呪術的なリズムと、ザクザクとしたギターリフが特徴的。ジェフリーのボーカルは狂気じみており、まるで闇の儀式のような異様な雰囲気を作り出している。
4. Run Through the Jungle
CCR（Creedence Clearwater Revival）のカバーだが、原曲とはまったく異なる解釈が施されている。重厚でダークなサウンドが、戦争と暴力の恐怖をさらに際立たせている。
5. Devil in the Woods
ブルース的なリフと、パンクの荒々しさが融合した楽曲。ジェフリーのボーカルは呪詛を唱えるようで、まるで南部の森の奥で悪魔と対峙するかのような雰囲気を持つ。
6. Texas Serenade
カントリーの影響が色濃いスローナンバーで、酒場の片隅で演奏されるような哀愁に満ちている。ジェフリーの歌詞には、放浪者や破滅的な愛、南部の荒涼とした風景が描かれており、ロードムービー的な雰囲気を醸し出す。
7. Watermelon Man
リズミカルでダンサブルな楽曲だが、どこか狂気じみた要素を持っている。The Gun Clubのパンク的な側面が強く出た楽曲。
8. Bad Indian
ロカビリーとガレージロックの要素が強い楽曲で、The Crampsの影響が色濃い。荒っぽいギターと、叫びにも近いボーカルが印象的。
9. John Hardy
アメリカン・フォークの伝統曲を、The Gun Club流のアレンジで演奏。原曲のバラッド的な要素を残しつつ、荒々しいガレージロック的な解釈が加えられている。
10. Sleeping in Blood City
アルバムの中でも最も不穏でダークな楽曲のひとつ。ジェフリーのボーカルはささやきから絶叫へと変化し、まるで悪夢の中を彷徨うかのような感覚を生み出している。
11. Mother of Earth
アルバムのラストを飾る壮大なバラード。ジェフリーの哀愁漂うボーカルと、ゆったりとしたギターが、美しくも悲しい余韻を残す。The Gun Clubの楽曲の中でも特に評価が高く、多くのアーティストがカバーしている。
総評
『Miami』は、前作『Fire of Love』のパンク的な衝動を引き継ぎながらも、よりダークでスローテンポな楽曲を増やし、退廃的なゴシック・ブルースへと進化した作品である。
ジェフリー・リー・ピアースのボーカルは、デルタ・ブルースの泥臭さと、パンクの反抗精神、さらにはゴシックロックの耽美的な世界観を融合させ、唯一無二の音楽性を確立している。また、プロデューサーのChris Stein（Blondie）が参加したことで、サウンドにはローファイながらも奇妙な洗練が加わっている。
本作は、The White Stripes、Nick Cave & The Bad Seeds、16 Horsepower、Wovenhandといったオルタナ・カントリーやゴシック・ブルースの流れを作るきっかけとなった重要なアルバムでもある。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Nick Cave & The Bad Seeds – The Firstborn Is Dead（1985年）
ゴシック・ブルースの名盤。The Gun Clubの影響を色濃く受けた作品。 - The Cramps – Psychedelic Jungle（1981年）
ガレージロックとロカビリーを融合させたカルト的名作。 - The Birthday Party – Junkyard（1982年）
Nick Cave率いるカオティックなポストパンク。The Gun Clubと共鳴する要素が多い。 - Wovenhand – Mosaic（2006年）
南部ゴシック的な要素を持つダークフォーク。 - The White Stripes – De Stijl（2000年）
パンク・ブルースの進化形として、The Gun Clubの影響を感じる作品。
『Miami』は、パンクとブルースの融合が深化し、The Gun Clubの音楽がより独自の世界観を確立した傑作である。
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