発売日: 1979年10月
ジャンル: パンクロック、ハードコア・パンク
混沌と破壊の美学——ハードコア・パンクの原点となった問題作
1979年、ロサンゼルスのパンクバンドGermsが唯一のスタジオアルバムGIをリリースした。本作は、アメリカン・ハードコア・パンクの礎を築いた伝説的な作品として、今なお語り継がれている。バンドはカリスマ的なフロントマンダービー・クラッシュ（Darby Crash）、ギタリストのパット・スメア（Pat Smear）（後にNirvanaやFoo Fightersで活躍）、ベーシストのローナ・ドゥーム（Lorna Doom）、ドラマーの**ドン・ボルト（Don Bolles）**という編成。
プロデューサーには**元The Runawaysのギタリスト、ジョアン・ジェット（Joan Jett）**を起用。彼女の手腕により、Germsの荒々しくカオティックなライブ・パフォーマンスが、スタジオ録音のフォーマットに落とし込まれた。だが、その音は決して洗練されたものではなく、むしろ無秩序な爆発エネルギーを詰め込んだものだった。
Germsは、1970年代後半のロサンゼルス・パンクシーンを象徴する存在であり、彼らの音楽は初期パンクの精神を体現していた。しかし、バンドの成功を目前にして、フロントマンのダービー・クラッシュは1980年にヘロインのオーバードーズで自ら命を絶ち、Germsの活動は短命に終わった。それゆえに、このアルバムは彼らの唯一にして決定的な作品となった。
全曲レビュー
1. What We Do Is Secret
アルバムの幕開けを飾る短いイントロダクション的な曲。タイトルが示すように、Germsのカルト的なムーブメントの始まりを宣言するかのような内容で、無機質なナレーションと不穏なサウンドが印象的。
2. Communist Eyes
重厚なギターリフと、ダービー・クラッシュの独特なボーカルが特徴の楽曲。政治的なメッセージが込められているが、あくまでGerms流の皮肉とユーモアが漂っている。音の荒々しさは初期パンクそのものだが、どこかアートパンク的な要素も感じさせる。
3. Land of Treason
高速ビートと攻撃的なリフが印象的な楽曲。ドン・ボルトのドラミングが疾走感を生み出し、パット・スメアのギターが鋭く切り込んでくる。ライブでは特に盛り上がるナンバーだった。
4. Richie Dagger’s Crime
比較的メロディアスな楽曲で、Germsの音楽的な幅広さを示している。歌詞は、自己破壊的なライフスタイルを描いており、ダービー・クラッシュ自身の人生と重なる部分が多い。
5. Strange Notes
混沌としたリズムと歪んだギターが特徴的なトラック。パンクというよりも、むしろノイズロック的なアプローチに近いサウンドが魅力的だ。
6. American Leather
タイトルからしてアメリカ文化への皮肉が込められている楽曲。シンプルなコード進行と、ダービー・クラッシュの狂気じみたシャウトが、Germsの本質をよく表している。
7. Lexicon Devil
シングルとしてリリースされたGermsの代表曲のひとつ。2分未満の短さながら、圧倒的なエネルギーとスピード感が詰まっている。ダービー・クラッシュの歌詞は、彼の思想や哲学を象徴するものとなっており、ファンの間ではカルト的な人気を誇る。
8. Manimal
アニマリスティックなタイトル通り、野生的で本能むき出しの演奏が特徴。ローナ・ドゥームのベースが力強く響き、バンド全体のグルーヴがピークに達する。
9. Our Way
ノイズとカオスの境界線を超えた実験的な楽曲。Germsのライブ・パフォーマンスの混沌をそのまま録音したような雰囲気があり、リスナーを圧倒する。
10. We Must Bleed
シンプルなギターリフが印象的な曲。歌詞の内容は極端に暗く、ダービー・クラッシュの破滅願望を如実に表している。
11. Media Blitz
パンクの精神をそのまま体現したような曲。メディアの欺瞞を暴露する内容で、まさに1970年代後半のアメリカの空気を映し出している。
12. The Other Newest One
比較的ストレートなパンクソングで、シンプルながらも力強いメッセージを持つ。Germsの楽曲の中では聴きやすい部類に入る。
13. Let’s Pretend
スローなテンポで展開される楽曲。アルバムの中では異色の存在であり、ダービー・クラッシュのボーカルがより感傷的に響く。
14. Dragon Lady
混沌としたサウンドが炸裂する一曲。パット・スメアのギターが特に冴え渡っており、Germsの演奏力の高さを再確認させる。
15. The Slave
アルバムのラストを飾るトラック。爆発的なエネルギーのまま終わる、まさにGermsらしいフィナーレ。
総評
GIは、アメリカン・ハードコア・パンクの歴史において極めて重要な作品である。音楽的には決して洗練されておらず、むしろ無秩序なカオスの塊だが、その生々しいエネルギーこそがGermsの魅力である。
このアルバムがリリースされた翌年、ダービー・クラッシュは自らの命を絶ち、Germsは伝説の存在となった。しかし、その影響は計り知れず、Nirvanaのカート・コバーンをはじめとする無数のアーティストにインスピレーションを与え続けている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Black Flag – Damaged（1981年）
ハードコア・パンクの金字塔。よりラウドでアグレッシブなサウンドを求めるなら必聴。 - Dead Kennedys – Fresh Fruit for Rotting Vegetables（1980年）
政治的メッセージが込められた、パンクの名盤。Germsの社会批判的な側面と共鳴する。 - The Stooges – Raw Power（1973年）
パンクの原型ともいえる攻撃的なロックアルバム。 - Minor Threat – Complete Discography（1989年）
ストレートエッジ・ハードコアの代表格。Germsの荒々しさと共通する純粋なエネルギーがある。 - Nirvana – Bleach（1989年）
パット・スメアが後に参加するバンド。Germsの影響を色濃く感じられるグランジの名作。
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