
発売日: 1973年12月7日
ジャンル: サイケデリック・ロック、スペース・ロック、カンタベリー・シーン
宇宙を旅するノームたち——Gongの奇想天外な音楽宇宙
1973年、Gongは『Flying Teapot』に続く「ラジオ・ノーム三部作(Radio Gnome Invisible Trilogy)」の第2作目となるAngel’s Eggをリリースした。本作は、バンドの核である**デヴィッド・アレン(Daevid Allen)**によるコンセプチュアルなストーリーテリングがさらに深化し、音楽的にもバラエティ豊かな楽曲が並ぶ、Gongの代表作のひとつである。
前作『Flying Teapot』で確立された「ラジオ・ノーム」という独特の世界観は、本作でさらに膨らみを見せる。物語は、惑星Gongを旅するノームたちと、彼らの超越的な存在であるOctave DoctorsやZero the Heroといったキャラクターを軸に展開される。サイケデリックなユーモアと深遠な哲学が交錯し、リスナーを一種の「音楽的アストラル・トリップ」へと誘う。
サウンドは、ジャズ・フュージョン、プログレッシブ・ロック、サイケデリック・ロック、さらにはフリージャズの要素まで混在し、単なる「奇抜なコンセプト・アルバム」にとどまらない音楽的挑戦に満ちている。バンドメンバーも強力で、ギタリストのスティーヴ・ヒレッジ(Steve Hillage)、ベーシストのマイク・ハウレット(Mike Howlett)、サックス&フルート奏者の**ディディエ・マルヘルベ(Didier Malherbe)**など、各メンバーが個々の才能を存分に発揮している。
全曲レビュー
1. Other Side of the Sky
アルバムの幕開けを飾る、幻想的なインストゥルメンタル。シンセサイザーの波のような音が宇宙空間を漂うような感覚を生み出し、サックスとギターが絡み合う。スティーヴ・ヒレッジのスペーシーなギターサウンドが特徴的で、Gongの音楽的な進化を象徴している。
2. Sold to the Highest Buddha
ファンキーなベースラインとジャジーなリズムが特徴の一曲。デヴィッド・アレンの遊び心あふれるボーカルが、Gongの持つユーモラスな側面を際立たせている。フルートとギターの絡み合いが絶妙で、ジャズ・ロック的な要素が強い。
3. Castle in the Clouds
メロディックで浮遊感のある楽曲。アコースティックギターのアルペジオが美しく、まるで夢の中をさまようような雰囲気が漂う。ディディエ・マルヘルベのフルートが幻想的な響きを加えており、アルバムの中でも特に心地よいナンバー。
4. Prostitute Poem
妖艶でミステリアスな楽曲。スローテンポで進行し、アレンのボーカルがまるで物語を語るように展開していく。タイトルからもわかるように、挑発的で皮肉の効いた歌詞が印象的。後半はジャズ的なインプロビゼーションへと突入する。
5. Givin’ My Luv to You
アコースティックギター主体のフォーク調の楽曲。軽快なリズムとシンプルなメロディが心地よく、アルバムの中では比較的ストレートな楽曲といえる。しかし、途中でエフェクトがかかり、サイケデリックなムードが強まるのがGongらしい。
6. Selene
エキゾチックな雰囲気を持つ楽曲。サックスの旋律がどこか中東風のムードを醸し出し、トランシーなリズムが続く。Gongの音楽的多様性を示す一曲であり、即興演奏の要素が強い。
7. Flute Salad
タイトルの通り、フルートが主役のインストゥルメンタル。ディディエ・マルヘルベの演奏が冴え渡り、フリージャズ的なアプローチが強調されている。実験的でありながらも聴きやすく、アルバム全体の流れの中で重要な役割を果たしている。
8. Oily Way
リズミカルで軽快な楽曲。サイケデリック・フォークの要素もあり、アレンのボーカルがユーモラスに展開する。歌詞には「ノーム」や「惑星Gong」といったフレーズが登場し、アルバムのコンセプトを補完する。
9. Outer Temple
スペース・ロック的な浮遊感を持つインストゥルメンタル。シンセサイザーが前面に出ており、リスナーを宇宙へと誘うような音響処理が施されている。アンビエント的な要素もあり、瞑想的なムードが漂う。
10. Inner Temple
前曲「Outer Temple」の続編的な楽曲。よりジャズ的な展開を見せ、リズムセクションが強調される。各メンバーの即興演奏が炸裂し、アルバム全体のクライマックスへとつながっていく。
11. Percolations
パーカッション主体のインストゥルメンタル。サイケデリックなエフェクトが散りばめられ、まるで異世界の儀式を目撃しているかのような雰囲気を醸し出している。フリージャズとミニマルミュージックの融合ともいえるサウンド。
12. Love Is How You Make It
比較的ストレートなポップソングのように聴こえるが、Gongらしいひねりが効いた楽曲。歌詞はシンプルながら、メロディラインが印象的で、キャッチーな一面を見せる。
13. I Never Glid Before
スティーヴ・ヒレッジがボーカルを担当し、ギターが前面に押し出された楽曲。アルバムの中でも最もロック色が強く、ヒレッジのフライングVギターのプレイが炸裂する。
14. Eat That Phone Book Coda
ラストを飾るノイジーな楽曲。タイトルからして奇妙だが、Gongらしい実験精神に溢れている。混沌としたサウンドの中に、バンドのユーモアと哲学が凝縮されている。
総評
Angel’s Eggは、Gongの持つ音楽的多様性とユーモア、そしてストーリーテリングの巧みさが詰まったアルバムだ。サイケデリック・ロック、スペース・ロック、フリージャズ、ジャズ・フュージョンなどの要素が混ざり合い、聴く者を幻想的な旅へと誘う。
Gongの作品の中でも特に完成度が高く、プログレッシブ・ロックファンにも強くおすすめできる一枚である。
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