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発売日: 2022年10月21日
ジャンル: ポップ、シンセポップ、インディーポップ
孤独の中で見つけた煌めき—Carly Rae Jepsenの進化を示す意欲作
カナダのポップ・プリンセス、Carly Rae Jepsenが届ける5作目のスタジオアルバム『The Loneliest Time』は、タイトルが示す通り、「孤独」という感情に真正面から向き合った作品だ。しかし、彼女の手にかかれば、孤独は決して沈んだ暗いものではなく、むしろ希望とロマンスに満ちたキラキラしたものに変わる。
前作『Dedicated』(2019年)では、80年代風のシンセポップを大胆に取り入れ、ディスコやファンクの影響を感じさせる作品となったが、本作ではさらにジャンルの幅を広げ、フォークやジャズ、オーケストラ・ポップ的な要素を散りばめている。プロデューサー陣には、Jack Antonoff(Taylor Swift, Lorde)やRostam Batmanglij(ex-Vampire Weekend)ら、現在のポップシーンを牽引する顔ぶれが揃い、Carlyの感情豊かなソングライティングをより洗練された形で支えている。
コロナ禍で生まれたこのアルバムは、単なる失恋ソング集ではなく、「孤独の時間をどう乗り越え、どう楽しむか?」というテーマを持つ。内省的な楽曲もあれば、恋愛に対する新たな気づきを描いたもの、そして思いがけないほどハッピーな瞬間を捉えたものもある。Carly Rae Jepsenは、「孤独」という感情すらポップなキャンバスに描き出す天才なのだ。
トラックごとのレビュー
1. Surrender My Heart
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、ピアノのリフとエモーショナルなシンセが絡み合う力強いポップ・アンセム。**「私は心を開く準備ができている」**という決意のこもった歌詞が、Carlyの澄んだボーカルと共に響く。自己防衛の壁を壊し、再び愛を受け入れようとする姿勢が、まるで新しい旅の始まりを告げているようだ。
2. Joshua Tree
ダンサブルなシンセポップに乗せて、カリフォルニアの砂漠を駆け抜けるような爽快感があるトラック。**「自由になりたい」「ここから抜け出したい」**という欲望が、疾走感のあるビートと共鳴している。恋愛からの逃避なのか、それとも自己発見の旅なのか、聴くたびに異なる解釈が生まれる曲だ。
3. Talking to Yourself
80年代風のシンセとギターリフが際立つ、アルバムの中でも特にキャッチーな一曲。**「私のことをまだ考えてる?」**と、相手の心の中を探るような歌詞が、ポップなメロディの中で甘美に響く。失恋の痛みをダンスフロアに持ち込むのはCarlyの得意技だが、この曲はその中でも特にフックが強い。
4. Far Away
ドリーミーなシンセと淡いストリングスが特徴的な、ロマンティックな楽曲。まるで誰かの夢の中に入り込んだような感覚を覚える。**「どこにいても、あなたがそばにいると感じたい」**というフレーズが印象的で、切ないが美しい余韻を残す。
5. Sideways
リズミカルなギターと、軽快なドラムが特徴のミッドテンポ・ポップ。新しい恋愛の始まりを描いており、**「君といると、全てがひっくり返る」**という甘い表現が散りばめられている。Carlyらしい、ほんの少しの不安と大量のときめきを詰め込んだラブソングだ。
6. Beach House
本作の中でも異色のトラック。軽快なメロディとは裏腹に、歌詞はデートの失敗談をユーモラスに綴る。「彼はビーチハウスを持ってるって言ったのに、実際は…」という皮肉が効いたリリックは、ポップな見た目の裏に毒を隠したCarlyらしいスタイル。
7. Bends
最も内省的な楽曲の一つ。シンプルなピアノとストリングスに乗せたメランコリックなメロディは、まるで夜の海に揺られる小舟のようだ。**「孤独の中でしか見つけられない何かがある」**というメッセージが響く。
8. Western Wind
フォークとポップを融合させた、温かみのある一曲。Jack Antonoffのプロダクションが際立ち、開放感あふれるアレンジがCarlyのボーカルを際立たせる。**「風が運ぶ愛の記憶」**というロマンティックなテーマが美しく描かれている。
9. The Loneliest Time (feat. Rufus Wainwright)
タイトル・トラックにして、アルバムのハイライト。Rufus Wainwrightとのデュエットが、まるでブロードウェイのミュージカルのようなドラマチックな雰囲気を生み出す。孤独の中にある希望を歌い上げるこの曲は、まさに本作の核心だ。
総評
『The Loneliest Time』は、単なる失恋ソング集ではなく、孤独を乗り越えた先にある自己発見と再生の物語だ。Carly Rae Jepsenは、今作でポップアーティストとしての新たな境地を開拓し、サウンドの幅を広げながらも、彼女らしいエモーショナルなポップソングを貫いている。
孤独は決して悲しいものではなく、新たな可能性を見つける時間。Carlyはこのアルバムで、そのことを優しく教えてくれる。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Taylor Swift – Midnights (2022)
80年代シンセポップの影響を受けた、内省的なアルバム。Carlyと同じく、孤独や愛についての詩的な表現が魅力。 - Dua Lipa – Future Nostalgia (2020)
レトロなサウンドとモダンなプロダクションの融合。キャッチーなメロディとダンサブルなビートがCarlyのファンにも刺さるはず。 - CHVRCHES – Screen Violence (2021)
シンセポップの美しさとエモーショナルな歌詞が特徴的。Carlyの煌めくサウンドが好きなら必聴。 - Robyn – Honey (2018)
エレクトロポップの女王Robynによる、感情豊かなダンスミュージック。Carlyと同様に、切なさと幸福感を同時に感じさせる。 - Rina Sawayama – Hold The Girl (2022)
ジャンルを超えた革新的なポップアルバム。Carlyの進化を楽しんだ人には、Rinaの音楽も響くだろう。
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