アルバムレビュー:9 by Public Image Ltd.

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

cover

発売日: 1989年5月1日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ニューウェイヴ、ポップ・ロック

概要

『9』は、Public Image Ltd.(PIL)が1989年に発表した9作目のスタジオ・アルバムであり、ジョン・ライドン率いるこのバンドが最もメジャー・ポップに接近した瞬間を記録した作品である。
その潔いまでにシンプルなタイトルは、過去の皮肉や実験性よりも「構造化された音楽としてのPIL」を明確に提示しようとする意図の表れとも言える。

前作『Happy?』の冷ややかなアプローチから一転し、『9』ではより洗練されたプロダクション、アメリカ市場を意識したクリーンな音作り、そして親しみやすいメロディが前面に出ている。
プロデューサーにはStephen Hague(Pet Shop Boys、New Order)やEric “ET” Thorngrenといったポップ志向のスタジオ職人が参加しており、その影響もあって、本作はPILの中でもっともラジオ・フレンドリーな音像を持つ作品に仕上がっている。

とはいえ、ジョン・ライドンの歌詞とボーカルには、依然として怒り、皮肉、社会批判の視点がしっかりと息づいており、そのギャップこそが『9』を単なるポップ・ロックに終わらせない理由である。

全曲レビュー

1. Happy

アルバム冒頭を飾る、ストレートなタイトルと軽快なリズムが特徴のナンバー。
しかし「Happy?」と問いかけた前作の流れを思えば、この“幸福”もどこか胡散臭い。
シンセとギターが心地よく絡むが、歌詞は冷笑的。

2. Disappointed

本作の代表曲にして、PIL最後の全米チャート入りを果たしたシングル。
「Disappointed, once more(またしても失望)」と繰り返されるサビは、感情を抑えながらも、深く響く。
ギターのメロディラインが極めてキャッチーで、PIL史上もっともポップな瞬間とも言える。

3. Warrior

中東風のリズムとギターリフが印象的なトラック。
“戦士”という比喩を通じて、現代の闘争やアイデンティティを語る。
ビートは重く、ヴォーカルも攻撃的で、アルバムの中で最もPILらしい強度を持った一曲。

4. USLS 1

意味深なタイトル(おそらく“U.S. Launch System 1”の略)に象徴されるように、軍事・権力・国家管理への皮肉を込めたナンバー。
不穏なサウンドとミドルテンポの展開が、現代の“見えない支配構造”を暗示する。

5. Sand Castles in the Snow

美しいタイトルとは裏腹に、虚無と脆さをテーマにした詩的なナンバー。
砂の城が雪の中で崩れるという比喩は、希望の不確かさ、愛情や理想の儚さを静かに語る。
バンドの中でも屈指のリリカルなトラック。

6. Criminal

社会的逸脱者や“犯罪”をテーマにしたダークな楽曲。
だが、ライドンがここで言う“Criminal”は、単なる違法者ではなく、システムの外にいる者すべてを含む。
シンセとギターの絡みが印象的で、構造はシンプルながらも緊張感がある。

7. The Body (Extended Version)

『Happy?』にも収録されていた「The Body」の新バージョン。
構成がより長く、ビートも強化されており、テーマである「身体」=コントロールされる対象という視点がより鮮明に。
アルバムの流れにダンサブルなアクセントを加える。

8. Open and Revolving

『Happy?』から続くトラック名だが、内容は異なり、より構造的でニューウェイヴ色の強いナンバー。
“回転し続ける”世界における自我の不確かさがテーマ。
冷静なヴォーカルと、じわじわと高揚していくバックトラックが魅力的。

9. Brave New World

アルドゥス・ハクスリーのディストピア小説『すばらしい新世界』を想起させるタイトル。
近未来的なビートとシンセを基調に、現代社会の管理化、技術化に対する警鐘が込められている。
「新しい世界」は本当に望まれるものなのか?──という疑念を音で表現している。

総評

『9』は、Public Image Ltd.が“ポストパンクの鬼子”から、より広いリスナーに届く「整えられた毒」へと変貌したことを示す象徴的なアルバムである。
音は洗練され、構造は明快、メロディもポップだが、そこに流れる感情と思想は一貫してPILのものであり、ジョン・ライドンの内なる批評性は失われていない。

むしろ、このアルバムではポップの構造を借りることで批評の輪郭が鮮明になったとも言える。
怒りを叫ぶのではなく、整然と語り、リズムに乗せてシステムへの懐疑を滑り込ませる。
この“静かなる闘争”こそが、『9』の真価である。

“ロックバンド”の文法の中で、最も遠くまで行ったPIL。
その行き着いた果てが“9”という無機質な数字であったことに、深い意味があるように思えてならない。

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