アルバムレビュー：Pieces of Eight by Styx

発売日: 1978年9月1日
ジャンル: プログレッシブ・ロック、ハードロック、アリーナ・ロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Pieces of Eight』は、Styxが1978年にリリースした8作目のスタジオ・アルバムであり、前作『The Grand Illusion』の成功を受けて制作された、いわば“黄金期のピーク”を象徴する作品である。

本作は“金銭的成功 vs. 本当の自己実現”というテーマを軸に、現代社会における価値観の葛藤を描き出している。
特にトミー・ショウのソングライティングが際立っており、「Blue Collar Man (Long Nights)」「Renegade」といった代表曲がアルバムの骨格を成している。

タイトルの“Pieces of Eight”はもともとスペイン銀貨の名称であり、物質的豊かさと引き換えに失われる“何か”への警鐘とも解釈される。
デニス・デ・ヤング、トミー・ショウ、ジェームス・ヤングの三者が、それぞれ異なる視点からこのテーマにアプローチしており、バンドとしての多様性と統一性が見事に融合している。

アリーナ・ロックとしてのスケール感を保ちながらも、コンセプチュアルで内省的なメッセージを持つという意味で、本作はStyxの真骨頂といえる。

全曲レビュー

1. Great White Hope

パワフルなギターリフとエネルギッシュなリズムが印象的なオープニング・ナンバー。
「白人の救世主（Great White Hope）」というタイトルは、社会的アイロニーを含みつつ、ロックスター像の自己批評としても読める。
バンドのダイナミズムを感じさせる力強い一曲。

2. I’m O.K.

デニス・デ・ヤングによるポジティブな自己肯定の賛歌。
パイプオルガンの使用が印象的で、教会音楽的な荘厳さとロックの融合を試みている。
「大丈夫（I’m O.K.）」という繰り返しに込められた“自己暗示”のような緊張感も見逃せない。

3. Sing for the Day

トミー・ショウの美意識が色濃く出た、牧歌的で繊細なナンバー。
アコースティックな響きと、フォーク調の軽やかさが、アルバム全体の中に一瞬の清涼感をもたらす。
“Sing for the day, sing for the moment”というフレーズが、刹那の美しさを讃えている。

4. The Message

シンセサイザーによる短いインストゥルメンタル。
次曲「Lords of the Ring」への導入として機能し、神秘的かつ未来的な雰囲気を演出する。

5. Lords of the Ring

ファンタジーと神話的イメージを取り込んだプログレッシブな楽曲。
“Tolkien的”世界観を思わせる詞世界で、権力、栄光、堕落といったテーマを寓話的に描いている。
ジェームス・ヤングの硬派なギターが曲全体を牽引する。

6. Blue Collar Man (Long Nights)

トミー・ショウ作による労働者階級への讃歌。
力強いギターリフと切実なボーカルが、職を求めて闘う男のリアリティを生々しく伝える。
アメリカ中西部出身のStyxらしい、労働と誇りへの共感がにじむ名曲。

7. Queen of Spades

デニス・デ・ヤングによる演劇的でダークな楽曲。
“スペードの女王”は運命や欲望の象徴であり、ギャンブルや愛の危うさを寓話的に描写する。
ピアノとシンセの織りなす陰影のあるアレンジが、楽曲の緊張感を高めている。

8. Renegade

スナップの効いたアカペラ・イントロから一気に突き抜けるハードロック・クラシック。
“逃亡者”という設定は、反体制的精神と自由への渇望を体現しており、Styx史上屈指のライヴ・アンセムとしても知られる。
トミー・ショウのヴォーカルとギターの冴えが光る一曲。

9. Pieces of Eight

アルバムのテーマを総括するタイトル・トラック。
「若さと夢を金銭と引き換えにしてはならない」というメッセージが、しっとりとしたピアノ・バラードとして提示される。
壮大なクライマックスへ向かう構成は、まさに“希望の再確認”のようにも感じられる。

10. Aku-Aku

アルバムのエンディングを飾る静謐なインストゥルメンタル。
“アク・アク”とはイースター島の神々に由来する語であり、ここでは“未知の地平”や“スピリチュアルな余韻”を象徴する。
『Pieces of Eight』の旅が終わり、静かに幕を下ろす瞬間である。

総評

『Pieces of Eight』は、Styxが音楽的にもコンセプト的にも頂点に達したアルバムであり、アリーナ・ロックの枠組みの中に思想性と物語性を巧みに織り込んだ傑作である。

金銭的成功、名声、野心といった“アメリカ的価値観”に対する問いかけと、それに抗う“精神的誠実さ”が、本作の主題として全体を貫いている。
ハードロックの力強さ、バラードの抒情性、プログレ的な構成力、それぞれが一曲一曲に丁寧に宿っており、どの楽曲もアルバムの核を担うほどの存在感を放っている。

特に「Renegade」や「Blue Collar Man」のような労働者的ヒロイズムと、「Pieces of Eight」や「Queen of Spades」のような内省的世界観が混在することで、本作は“人生の二面性”をも描き出している。

Styxが単なるヒットメーカーではなく、深い思索と美意識を持ったアーティスト集団であることを証明した作品であり、今なお語り継がれる理由がここにある。