発売日: 1973年7月26日
ジャンル: ブルースロック、サザンロック、ブギーロック
概要
『Tres Hombres』は、ZZ Topが1973年にリリースした3作目のスタジオ・アルバムであり、彼らを“南部ブルースロックの顔”へと押し上げた決定的作品である。
タイトルの「Tres Hombres」はスペイン語で“三人の男たち”を意味し、まさにビリー・ギボンズ、ダスティ・ヒル、フランク・ベアードの三位一体のグルーヴが炸裂する1枚となっている。
本作は、ブルースロックの土台の上に、より洗練されたソングライティング、ファンキーなアレンジ、そして“アメリカ南部の風景”を感じさせる独特のユーモアが融合。
バンド初のヒットアルバムとして全米チャートでも健闘し、特にシングル「La Grange」は、彼らの代表曲として後世に語り継がれることとなった。
サウンドは生々しく、重く、熱い。
テキサスの土と汗、ビールとタバコの香りが漂ってくるような泥臭さと共に、演奏の切れ味とフックの強さが見事に両立しており、“これぞZZ Top”というスタイルが確立された作品である。
全曲レビュー
1. Waitin’ for the Bus
ファンキーなベースと跳ねるようなリズムで幕を開ける、オープニングにふさわしいナンバー。
“バスを待つ男”という何気ない状況が、ブルースと人生の交差点になる。
2. Jesus Just Left Chicago
前曲からシームレスに繋がるスロウ・ブルース。
“イエスがシカゴを去った”という寓話的なイメージで、アメリカ南部の宗教感と放浪の美学を描く。
深いグルーヴと空間の余白が絶妙。
3. Beer Drinkers & Hell Raisers
バンドの陽気な荒くれ精神を体現した一曲。
“ビール飲んで騒ぐ”というシンプルなテーマながら、ギターリフとコール＆レスポンスの構成がとにかくキャッチー。
ライブでも大人気の定番曲。
4. Master of Sparks
実体験をもとにした“火花をまき散らす鉄球車”の奇妙な冒険譚。
ギボンズの語り口が物語性を生み出し、アメリカ南部の“バカげた遊び”をロマンとして昇華している。
5. Hot, Blue and Righteous
バンドの意外な一面を見せる、メロウでスピリチュアルなバラード。
熱く、蒼く、そして正義を宿したラヴソングは、ゴスペル的とも言える構造で、心を静かに揺さぶる。
6. Move Me on Down the Line
タイトなリズムとフックの効いたメロディが光る小気味良いロック・ナンバー。
“次の町へ向かうだけさ”という、放浪のポリシーが貫かれている。
7. Precious and Grace
荒削りなギターとドライヴ感が支配する、バンド屈指のグルーヴィーな名曲。
“プレシャスとグレイス”という女性コンビとの危険な旅路を描いた、ロードムービー的展開がスリリング。
8. La Grange
ZZ Top最大の代表曲であり、ブルースリフの教科書的存在。
テキサス州ラ・グレンジの実在する“お店（売春宿）”をモチーフにした、ユーモアと妖艶さが混在する曲。
ジョン・リー・フッカーを彷彿とさせるブギーリズムとギターの歪みがクセになる。
9. Sheik
ミステリアスなメロディとアラビアン・スケールを取り入れた変化球。
“シーク”というキャラクターを主人公にした、ブルースのファンタジー。
10. Have You Heard?
アルバムを穏やかに締めくくるスロウ・ナンバー。
“もう聞いたか？”という問いかけに、音楽そのものが答えているような余韻が残る。
総評
『Tres Hombres』は、ZZ Topというバンドが初めて“自分たちの音楽的ホーム”を発見し、そこに自信と遊び心を持って立った記念碑的作品である。
ブルースロックの伝統を踏まえながらも、語り口やアレンジに南部的ユーモアやスワンプ感を盛り込むことで、唯一無二の“テキサス流ロックンロール”が完成している。
“汗まみれで、ちょっとバカで、だけどカッコいい”――そんな南部のリアルが詰まったこの作品は、ZZ Topの最も純粋で濃密な表現であり、彼らを語るうえで欠かすことのできない名盤である。
初期の最高到達点であると同時に、後の名作『Fandango!』『Eliminator』への布石とも言える、重要な分岐点となった一枚なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Lynyrd Skynyrd – Second Helping (1974)
南部的語り口とブルースの融合が『La Grange』と共鳴。 - The Rolling Stones – Exile on Main St. (1972)
ルーツロックとブルースの雑多な魅力が『Beer Drinkers』的雑食性と一致。 - Cactus – Restrictions (1971)
泥臭くヘヴィなブルースロック。『Precious and Grace』とのリンクが強い。 - Foghat – Rock and Roll Outlaws (1974)
ドライヴ感とブギーの美学。『Move Me on Down the Line』的な勢いを求めるなら。 - Little Feat – Dixie Chicken (1973)
サザンソウルとスワンプロックの融合。『Hot, Blue and Righteous』のようなメロウな瞬間と親和性あり。
コメント