アルバムレビュー：The Wetter the Better by Wet Willie

アルバムレビュー

2025.04.19

発売日: 1976年5月
ジャンル: サザンロック、ブルースロック、ソウル、R&B

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『The Wetter the Better』は、Wet Willieが1976年に発表した7作目のスタジオ・アルバムであり、彼らの“サザン・ソウル・ロック”スタイルが円熟の域に達した作品である。
前作『Dixie Rock』に続き、彼らは南部のルーツを軸にしながら、より洗練されたサウンド・プロダクションとファンキーなグルーヴを取り入れ、本作でバンドの多面的な魅力を一層深化させている。

アルバムタイトルの“The Wetter the Better（濡れてるほどイイ）”は、性的なダブルミーニングを含みつつも、彼らの“濃厚なサウンド”、“湿度を帯びたソウルフルな演奏”をそのまま形容するようなフレーズである。
ジミー・ホールのソウルフルなヴォーカル、サックス、そして彼の妹ドナ・ホールを含むバックコーラス陣のゴスペル的な厚み、さらにファンクの要素が加わったリズムセクションが、アルバム全体に躍動感と色気を与えている。

全曲レビュー

1. Baby Fat

ファンキーなベースラインとクラヴィネットが牽引する、セクシャルで遊び心あるオープニング・ナンバー。
“赤ちゃんの脂肪”というタイトルの裏には、フェティッシュとユーモアの感覚があり、ホールの軽快なヴォーカルが全体をポップにまとめている。

2. Everything That ‘Cha Do (Will Come Back to You)

前作からの再録であり、因果応報をテーマにしたメッセージソング。
ファンク色が強化されており、ホーンセクションとバックコーラスの絡みが一層華やかになった。

3. Randy Roe

疾走感のあるブギー調のロックンロール。
“ランディ・ロウ”という女性キャラクターをめぐる物語がユーモラスに語られ、ライヴ向けの一曲。

4. Fool on You

2ndアルバムにも登場した哀愁のブルース・ナンバーの再演。
ホールの歌唱がさらに深みを増し、バンドの成熟度を感じさせる。
サックスとギターの掛け合いも聴きどころ。

5. Street Corner Serenade

本作最大のシングルヒット。
“街角のセレナーデ”というロマンチックなタイトル通り、都会的で洗練されたソウル・ロック・チューンでありながら、リズムはあくまで泥臭く、湿り気を帯びている。
ホールのヴォーカルとバックのコーラスが極上。

6. We’ve Got Lovin’

スローテンポで展開するソウルフルなラヴソング。
70年代ソウルバラードのエッセンスが色濃く出ており、フェンダー・ローズやサックスが官能的なムードを演出する。

7. Mr. Streamline

軽快なビートとラジオ向けのキャッチーなメロディが魅力のミッドテンポ・ナンバー。
“ストリームライン氏”という謎のキャラが、現代社会のスピード感や表層的な人間関係を象徴しているかのよう。

8. One Track Mind

ロック色の強いギターリフと、ドライブ感のあるビートが際立つ曲。
“ひとつのことしか考えられない奴”をテーマに、ユーモアと自虐を交えた歌詞が印象的。
Wet Willieのロックバンドとしての面目躍如。

総評

『The Wetter the Better』は、Wet Willieがサザンロックとソウル／R&B／ファンクの要素を高次元で融合させ、“サザン・ソウル・バンド”としての完成形に到達した作品である。
バンド初期のブルース色の強いアプローチから比べると、本作のアレンジや演奏は格段に洗練されており、同時代のLittle FeatやDr. John、Tower of Powerなどと肩を並べる音楽的スケールを獲得している。

ジミー・ホールの歌唱とサックス、リズム隊のファンクネス、そしてドナ・ホールらによるコーラスワークは本作において絶妙なバランスで機能し、聴き手を“濡れた夜のサザン・ダンスホール”へと誘う。
どの曲もグルーヴが強く、踊れるが、決して軽薄ではない――それが本作の真骨頂だろう。