発売日: 1970年6月
ジャンル: ハードロック、プログレッシブロック、ブルースロック

概要

『…Very ‘Eavy …Very ‘Umble』は、イギリスのバンドUriah Heepが1970年に発表した記念すべきデビュー・アルバムであり、後に“ブリティッシュ・ハードロック四天王”の一角として君臨することになる彼らの出発点である。
バンド名の由来は、チャールズ・ディケンズの小説『デイヴィッド・コパフィールド』の登場人物“ユライア・ヒープ”から取られており、作品全体にも英国的な古典性と幻想的世界観が漂っている。

音楽的には、ヘヴィなギターリフ、オルガンの豊かな響き、マルチボーカルのコーラスワーク、そしてドラマティックな楽曲展開を軸とし、当時のディープ・パープルやレッド・ツェッペリン、ブラック・サバスといった同時代のバンドと並びながらも、より幻想性と叙情性に重きを置いた独自のスタイルを築こうとしている。
特にデヴィッド・バイロンの劇的なヴォーカルと、ミック・ボックスのギター、ケン・ヘンズレーのキーボードが三位一体となったサウンドは、デビュー作ながらすでに個性が強く、のちのプログレッシブ・ロックやヘヴィメタルにも影響を与える基礎を形成している。

なお、アメリカ盤では楽曲構成が一部異なり、“Bird of Prey”が追加されるなどの相違があるが、本レビューではUKオリジナルを基準に解説する。

全曲レビュー

1. Gypsy

オルガンとギターの強烈なユニゾンで幕を開ける、バンドの代表曲にしてヘヴィロックの古典。
リフの反復とヴォーカルの熱量が壮絶な緊張感を生み出し、バイロンのオペラティックな表現力が初期Uriah Heepの世界を強烈に印象づける。
“私はジプシー、自由の中にしか生きられない”という歌詞も象徴的。

2. Walking in Your Shadow

キャッチーなリフと明快な構成で進む、ブルース色の強いハードロック。
恋人の影に寄り添うような存在でいたいというテーマが、やや軽快なメロディで表現されており、アルバム中のリラックスポイントでもある。

3. Come Away Melinda

フォーク的な旋律と深いメッセージ性を持ったバラード。
原曲はフォークシンガーによる反戦歌であり、本作ではストリングス的なオルガンと、抑制されたヴォーカルによって、哀しみと静謐さが描かれている。
“お父さん、誰がこの世を壊したの？”という少女の問いが、心に突き刺さる。

4. Lucy Blues

その名の通り、ブルース調のミディアムナンバー。
ピアノとギターが主導するジャム風の構成で、酒場のような生々しさと即興性が魅力。
オルガンの使い方にもジャズ的なニュアンスがあり、アルバム中でも異彩を放つ。

5. Dreammare

幻想的なタイトルにふさわしく、プログレッシブな展開とヘヴィなリフが絡み合うナンバー。
夢と悪夢の狭間で揺れるような旋律と、突如として襲いかかる展開の変化がスリリング。
バンドの“幻想志向”が明確に打ち出された楽曲のひとつ。

6. Real Turned On

リズミカルでロックンロール色の強い楽曲。
軽快なテンポと爽快なコーラスが、初期のThe WhoやFreeを思わせる側面もあり、Uriah Heepの多様性を示している。

7. I’ll Keep On Trying

叙情性とパワーが交錯する、劇的構成のミディアム・バラード。
“諦めずに努力し続ける”というテーマを、ドラマティックな転調とコーラスで盛り上げていく。
バンドのヴォーカル・ハーモニーの力がよくわかる一曲。

8. Wake Up (Set Your Sights)

アルバムを締めくくるにふさわしい、サイケデリックかつスピリチュアルな作品。
ゆったりとした導入から、段階的に熱を帯びていく展開が印象的で、バンドの持つ哲学的側面が垣間見える。
“目を覚ませ、君自身のビジョンを定めよ”というメッセージは、デビュー作のクロージングとして意味深い。

総評

『…Very ‘Eavy …Very ‘Umble』は、Uriah Heepというバンドの出自と志向性――すなわちハードロックの力強さと、幻想や叙情、哲学を融合した音楽性――を鮮烈に提示したデビュー作である。
同時期に活躍していたディープ・パープルやブラック・サバスと比較しても、本作には“物語性”と“演劇的なスケール”が強く刻まれており、後のプログレッシブ・ハードの潮流を先取りする作品と言える。

バイロンのヴォーカルはオペラティックでシアトリカル、ミック・ボックスのギターはヘヴィかつメロディアス、ケン・ヘンズレーのオルガンは叙情と霊性を司り、三者が拮抗しながらも有機的に絡み合っている。
この“過剰すれすれ”の美学こそがUriah Heepの魅力であり、それはデビュー時点ですでに完成されていたのである。

おすすめアルバム（5枚）

1. Deep Purple – In Rock (1970)
   同年発表のハードロック名盤。ギターとオルガンの激突構造が共通。
2. Black Sabbath – Paranoid (1970)
   同じく1970年リリース。ヘヴィネスと社会性の導入という点で響き合う。
3. Atomic Rooster – Death Walks Behind You (1970)
   オルガンを軸にしたプログレッシブ・ハードの好例。
4. The Nice – Ars Longa Vita Brevis (1968)
   クラシック的構成とキーボード主体のサウンドがUriah Heepの構造美に通じる。
5. Van der Graaf Generator – H to He, Who Am the Only One (1970)
   哲学的リリックと演劇的サウンド。Uriah Heepの幻想性と親和性あり。

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