発売日: 1976年5月
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、ヘヴィメタル
概要
『No Heavy Petting』は、UFOが1976年にリリースした5作目のスタジオ・アルバムであり、マイケル・シェンカー体制の中期を象徴する重要作である。
前作『Force It』で確立されたハードロック・スタイルをさらに推し進めながら、より明瞭なメロディ、コンパクトな構成、そしてキーボードを導入した多層的サウンドによって、バンドの音楽的幅を広げた作品となっている。
本作では初めてキーボーディストのダニー・ペイロネル(元Savoy Brown)が正式メンバーとして参加。
彼の加入によって、UFOサウンドにシンセやピアノといった柔らかな要素が加わり、ハードロックの枠を超えたアレンジが試みられている。
プロデュースはレオ・ライオンズが引き続き担当し、音像はタイトかつ重厚、バンドの一体感はこれまで以上に強化された印象を与える。
アルバムタイトル『No Heavy Petting』は、公共のプールなどで見られる「過度な接触禁止」の標語を皮肉ったもので、ユーモアと反抗心がにじむ。
ジャケットのシュールなアートワークも含めて、“英国流ロックンロールのウィット”が全体を彩っている。
全曲レビュー
1. Natural Thing
UFOのライブ定番曲で、冒頭から炸裂するエッジの効いたリフとタイトなビートが印象的。
“愛は自然の成り行き”というフレーズの通り、抑えたトーンの中に激しい情熱が潜んでいる。
シェンカーのギターが冒頭から冴え渡る。
2. I’m a Loser
哀愁と怒りが交錯する名バラードで、フィル・モグの歌唱が特に冴え渡る。
“敗者であること”を堂々と歌う姿勢が、逆説的な強さと誠実さを感じさせる。
サビに向けてのギターとキーボードの重なりが美しい。
3. Can You Roll Her
軽快なシャッフルビートとブルース感のあるギターが際立つロックンロール・ナンバー。
ジャム的な要素が強く、ライブでの即興にも適した構成。
4. Belladonna
本作屈指の叙情バラード。
“ベラドンナ”という妖艶な存在をめぐる幻想的な歌詞と、シェンカーの抑制されたギターが一体となって繊細な世界を作り上げる。
ピアノとギターのバランスも絶妙。
5. Reasons Love
短くストレートなロックナンバー。
情熱と衝動に任せたような勢いが心地よく、アルバムの中でひときわラフな魅力を放っている。
6. Highway Lady
ダニー・ペイロネルのキーボードが中心に据えられた、軽快でポップなハードロック。
アメリカン・ロックへの目配せも感じられ、UFOの柔軟な音楽性を物語る一曲。
7. On with the Action
スローでシリアスなトーンのミディアムナンバー。
都市の陰鬱な側面や人間関係の疲弊を描いたようなリリックが特徴で、ダークで重たい空気感を持つ。
8. A Fool in Love
ブギー調の陽気なリズムと、皮肉めいた歌詞が絡み合うユニークなナンバー。
“恋に落ちた愚か者”というテーマが、シニカルに、かつ楽しげに語られる。
9. Martian Landscape
アルバムの締めくくりを飾るスペーシーで幻想的な曲。
タイトル通り“火星の風景”を思わせるようなサウンドスケープで、サイケ期のUFOを思い出させる。
キーボードとギターの揺らめきが美しく、余韻を残すエンディング。
総評
『No Heavy Petting』は、UFOというバンドが単なるハードロックにとどまらず、メロディ、構成、演奏力、叙情性のすべてにおいて“成熟したバンド”としての完成度を見せたアルバムである。
マイケル・シェンカーのギターはここでも圧巻でありつつ、全体としては他のメンバーとのアンサンブルによる“引き算の美学”も意識されている点が特筆される。
バンドの勢いと内面性、パワーと繊細さが絶妙なバランスで共存しており、UFOの作品群の中でも“隠れた完成度の高い一枚”として、コアなファンから長く支持され続けている。
とりわけ“Belladonna”や“I’m a Loser”といったバラードにおける感情表現は、後続のハードロック/メタルバンドにも強い影響を与えた。
おすすめアルバム(5枚)
- Rainbow – Down to Earth (1979)
シェンカーと並び称されるリッチー・ブラックモアによる叙情的ハードロックの傑作。 - Whitesnake – Ready an’ Willing (1980)
ブルースとハードロックの融合。UFOの粘りあるグルーヴと共鳴。 - MSG – Assault Attack (1982)
マイケル・シェンカーのソロ活動中の名盤。メロディと技巧がさらに際立つ。 - Thin Lizzy – Bad Reputation (1977)
哀愁とロックンロールの融合。『I’m a Loser』との精神的共振あり。 - Blue Öyster Cult – Agents of Fortune (1976)
幻想性とロックの知性を融合。『Martian Landscape』的世界観との親和性が高い。
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