発売日: 1968年10月16日
ジャンル: ポップロック、ブルーアイド・ソウル、サイケデリック・ロック
概要
『Three Dog Night』は、1968年にリリースされたスリー・ドッグ・ナイトのセルフタイトルによるデビュー・アルバムであり、彼らの“多声的かつ選曲主義的ロック”という独自のスタイルがすでに確立されていたことを示す記念碑的作品である。
グループはチャック・ネグロン、ダニー・ハットン、コリー・ウェルズという三人のリードシンガーを擁し、個性の異なる声を持ち寄って多彩な曲調をカバーするという稀有な構成で注目を集めた。
また、本作において彼らは、後に代表曲となる「One」(ハリー・ニルソン作)を含む秀逸なカバー曲群を通じて、当時のロック/ポップ界に新たな“解釈の芸術”を提示する。
編曲や演奏は当時のロサンゼルスの一流セッション・プレイヤーによるもので、ブルース、ソウル、フォーク、サイケデリアといったジャンルの要素を、極めて洗練された形で吸収している。
彼らの成功の鍵は、素材選びのセンスと歌唱力、そしてジャンルを横断する柔軟さにあった。
全曲レビュー
1. One
ハリー・ニルソンによる原曲をドラマティックに再構築した代表曲。
チャック・ネグロンの情感豊かなヴォーカルと、緊張感あるアレンジが高く評価された。
“最も孤独な数字”という歌詞が、時代の疎外感と見事に重なり、全米5位のヒットに。
2. Nobody
ブルージーでグルーヴ感のあるアップテンポ・ナンバー。
ハンドクラップと粘り気のあるヴォーカルが印象的で、ライヴでの盛り上がりを想起させる構成となっている。
3. Heaven Is in Your Mind
トラフィックの楽曲を取り上げたサイケデリックな一曲。
浮遊感のあるオルガンとコーラスが特徴で、スリー・ドッグ・ナイトの柔軟な選曲眼が光る。
4. It’s for You
レノン=マッカートニー作の隠れた佳曲をジャズ風にアレンジ。
ボーカルのアンサンブルが美しく、まるでブロードウェイ・ショーの一幕のような洒脱な仕上がり。
5. Let Me Go
ファンキーでリズム主導のロックナンバー。
ギターとホーンセクションの絡みが絶妙で、ブラック・ミュージックの影響を強く感じさせる。
6. Women
哀愁を帯びたバラード調の一曲。
“女性”という抽象的な対象に向けた賛歌とも哀歌とも取れる内容で、コリー・ウェルズのソウルフルな歌声が光る。
7. Don’t Make Promises
ティム・ハーディン作のフォーク調バラード。
アコースティック・ギターとさりげないコーラスの重なりが温かく、誠実な解釈が印象的。
8. The Loner
ニール・ヤングの楽曲を取り上げたストイックなナンバー。
孤独を抱えた“放浪者”像が、スリー・ドッグ・ナイトの解釈によってより明瞭に浮かび上がる。
9. Try a Little Tenderness
オーティス・レディングのバージョンで有名なこの楽曲を、バンドならではのパワフルなアンサンブルで披露。
後半にかけてのソウルフルな盛り上がりは圧巻。
10. Bet No One Ever Hurt This Bad
ランディ・ニューマンによる皮肉混じりの楽曲。
しっとりとした曲調の中に、情けなさと優しさが同居する独特の世界観が再現されている。
11. Don’t Make Promises (Reprise)
短いリプライズで、アルバム全体に円環的な終止感を与える。
余韻を残す締めくくりとして機能。
総評
『Three Dog Night』は、ただのカバーバンドではない。
彼らはこのアルバムで、選び抜かれた楽曲に自らの声とアレンジを吹き込み、元曲とは異なる角度から楽曲の魅力を引き出すことに成功した。
三人のシンガーそれぞれの個性が際立ちながら、合わさった時の化学反応が見事であり、ポップス/ソウル/ロック/フォークの枠組みを超えた“クロスオーバーの時代”の先駆者としての顔も見せている。
さらに、彼らの解釈は単なる模倣ではなく、楽曲に新たな命を与える“再創造”の姿勢であり、それが多くのリスナーに支持された理由でもある。
このデビュー作は、以後のヒット街道へと続く扉であると同時に、“音楽を歌い直す”という創造的行為の可能性を提示した、60年代末のポップロックにおける重要なマイルストーンである。
おすすめアルバム(5枚)
- The Band – Music from Big Pink (1968)
同時代的に“ルーツ音楽の再構築”を試みた名盤。選曲と演奏の誠実さが共通。 - Blood, Sweat & Tears – Child Is Father to the Man (1968)
ジャンル横断的なロックの好例。ブラス・ロック的アレンジは共通項が多い。 - The Association – Insight Out (1967)
ヴォーカル・ハーモニーを重視したアンサンブル・ポップ。スリー・ドッグ・ナイトと精神的近さあり。 - Nilsson – Aerial Ballet (1968)
「One」の作者でもあるニルソンの傑作。作家としての多様性と声の可能性に注目。 - The Rascals – Groovin’ (1967)
白人によるソウル・ロックの草分け的存在。ブルーアイド・ソウルという括りでつながる。
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