発売日: 1978年1月
ジャンル: アートロック、ソフトロック、プログレッシブ・ポップ
概要
『Level Headed』は、イギリスのロックバンド Sweet が1978年に発表した6作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの音楽性とビジュアルの両面で“最も異質”とされる作品である。
ハードロックやグラム・ロックの路線を確立した彼らが、それらをいったん解体し、よりアートロック的で耽美的な方向へと向かったこのアルバムは、Sweetのキャリアにおける大きな転機を象徴する。
リリース元は従来のRCAを離れ、ポリドールからのリリースとなった。
アルバムジャケットはモダンアート風の抽象画を用いたシンプルなものとなっており、ビジュアル面でも“華美さ”を抑えた美学が貫かれている。
また本作では、アンディ・スコットとスティーヴ・プリーストの作曲比率が上昇し、バンド内での役割分担にも変化が生じている。
最大のヒット曲「Love Is Like Oxygen」は、Sweetのサウンドの進化を象徴する一曲であり、ポップ、プログレ、ディスコ的要素を見事に融合。
結果的に本作は、バンドの“終焉前の最も静かな熱狂”とも呼べる、深みと実験精神に満ちた意欲作として位置づけられている。
全曲レビュー(UK盤準拠)
1. Dream On
ストリングスとシンセが美しく絡み合うミッドテンポのバラード。
“夢を見続けること”の儚さと美しさを描いた抒情的な一曲で、Sweetのイメージを大きく覆す柔らかさと透明感に満ちている。
2. Love Is Like Oxygen
バンド史上最大の後期ヒット曲で、Sweetの音楽的頂点とも言える傑作。
序盤のシンセとストリングスによる壮麗な導入から、キャッチーなロック・サウンドへと展開し、後半にはインストゥルメンタルによるプログレ的なセクションも挿入される。
“愛は酸素のようなもの”という詩的比喩が胸に迫る。
3. California Nights
軽快なギターと煌びやかなメロディが印象的なポップ・ロック。
タイトル通り、カリフォルニアの夜をイメージした開放的なサウンドで、バンドのUS志向が色濃く表れている。
バブルガム・ポップ時代の軽やかさを大人の表現で再解釈したような楽曲。
4. Strong Love
ストレートなロック・ナンバーで、プリーストの荒々しいヴォーカルが新鮮。
グラム期の名残を感じさせる力強さと、洗練されたアレンジのバランスが良い。
タイトル通りの“強い愛”を直接的に叫ぶ歌詞が潔い。
5. Fountain
クラシカルなイントロと抑制された演奏が特徴のアート・ポップ寄りの楽曲。
“泉”という象徴をめぐって、再生や願望といった抽象的テーマを扱っており、ポエティックな美しさがある。
本作の芸術性を象徴する一曲。
6. Anthem No. I (Lady of the Lake)
“湖の貴婦人”という神話的モチーフを主題にした荘厳な組曲的楽曲。
シンフォニックなアレンジと演劇的ボーカルが織りなす構成は、まるでプログレバンドのようであり、Sweetの音楽的野心が感じられる。
ドラマティックな展開が圧巻。
7. Anthem No. II
前曲の余韻を引き継ぐ短いインストゥルメンタル・パート。
ストリングスとエレクトロニクスによって、幻想的な風景を描き出す。
“アルバム全体のコンセプト”を浮かび上がらせる役割を担う。
8. Air on ‘A’ Tape Loop
エレクトロニクスとテープループを用いた実験的なサウンド。
バロック音楽的フレーズを引用しつつ、現代音楽の手法を取り入れたインストゥルメンタル。
Sweetの前衛性と構成力が試された一曲。
9. Live for Today
直球のロック・ナンバーで、前作にも収録されていたが再録版。
このバージョンではテンポがやや抑えられ、より洗練された印象に仕上がっている。
アルバム中で数少ない“開けたロック”の瞬間。
10. Stay with Me
アルバムのクロージングにふさわしい静謐なバラード。
別れを予感しながらも“もう少しここにいて”と願う内容で、淡く切ない余韻を残す。
Sweetというバンドが“終わりに近づいている”という気配を強く感じさせる一曲でもある。
総評
『Level Headed』は、Sweetがグラム・ロックとハードロックの華やかな過去を一度リセットし、静謐さと知性、耽美性を探求した異色作である。
全体を通して過剰さが抑えられており、構成はより洗練され、サウンドはストリングスやシンセサイザーを多用した美的完成度の高い仕上がりとなっている。
バンドとしての演奏力と作曲能力、そして“音楽で何を語るか”という表現意識が、ここにきて最も繊細かつ成熟した形で表現されており、Sweetの真の音楽性を知るうえで極めて重要なアルバムである。
“派手なロックバンド”という既成概念を壊し、“抑制の美”を手にした彼らの姿は、グラム・ロック後期におけるひとつの完成形でもある。
この作品をもってブライアン・コノリーが脱退し、バンドは大きな転機を迎えることになるが、それゆえに『Level Headed』はSweet最後の“完全体”として、静かなる傑作として語り継がれている。
おすすめアルバム(5枚)
- Electric Light Orchestra – Out of the Blue (1977)
ストリングスとロックの融合、ポップとクラシックの均衡が本作と響き合う。 - Roxy Music – Avalon (1982)
耽美的なアートロックの完成形。Sweetの静けさと洗練が重なる。 - 10cc – Deceptive Bends (1977)
知的ポップと構成美、そして哀愁のメロディが共通。 - Bee Gees – Spirits Having Flown (1979)
ディスコ期における美的洗練。ストリングスとファルセットの使い方が共通。 - Supertramp – Even in the Quietest Moments… (1977)
静寂の中の情感と構築力。“静けさの中の熱”という本作と通じる精神性を持つ。
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