発売日: 1971年1月16日
ジャンル: ブルースロック、サザンロック、ブギーロック
概要
『ZZ Top’s First Album』は、テキサス出身のトリオバンドZZ Topが1971年に発表したデビュー・アルバムであり、彼らのキャリアとアイデンティティの原点を記録した作品である。
ブルースに根差したギターリフ、湿り気と土臭さのあるヴォーカル、そしてシンプルかつグルーヴィなリズムセクション――それらが既にここで確立されており、後の大成功を予感させる荒削りな魅力に満ちている。
ZZ Topは、ビリー・ギボンズ（G, Vo）、ダスティ・ヒル（B, Vo）、フランク・ベアード（Dr）の3人から成るパワートリオであり、アメリカ南部の文化や日常風景を音楽で体現するスタイルで知られる。
本作は、メンフィス録音による生々しいサウンドとブルースへの深い敬意を軸に、ユーモアとタフさが共存する“サザン・ブルースロック”の萌芽を感じさせる。
全曲レビュー
1. (Somebody Else Been) Shakin’ Your Tree
スライドギターと軽快なグルーヴで幕を開けるファンキーなブルースロック。
“誰かが君の木を揺らしてる”という比喩で、浮気や裏切りを描いた歌詞がユーモラスかつ痛烈。
2. Brown Sugar
ストレートなブルースリフとタフなビートが心地よいミディアムナンバー。
ローリング・ストーンズとは異なるアプローチで、より南部ブルースに根ざした渋みがある。
3. Squank
ヘヴィなギターと跳ねるようなリズムが特徴のファンキー・チューン。
タイトルの“Squank”はスラング的で意味は曖昧だが、演奏そのものが言葉以上のニュアンスを伝える。
4. Goin’ Down to Mexico
ヒリヒリするようなギターとラテンのエッセンスを感じさせるリズムが特徴。
“メキシコへ行く”という逃避と冒険のモチーフが、自由への渇望を表現している。
5. Old Man
ゆったりとしたテンポで進行するブルース・バラード。
“老いた男”という語りが、人生の後半を静かに見つめるような語り口で響く。
6. Neighbor, Neighbor
ドラムとベースのグルーヴが前面に出たナンバーで、近所の人間関係をテーマにした軽妙なブルース。
ギターは抑えめながら、空間を生かしたアレンジが粋。
7. Certified Blues
クラシカルな12小節ブルース形式を基盤に、ギターソロが炸裂する“ZZ Top流ブルースの教科書”。
テキサス・ブルースの熱気と即興性がたっぷり詰まっている。
8. Bedroom Thang
セクシュアルでスロウなグルーヴが支配する楽曲。
“ベッドルームでのやりとり”をテーマに、抑制と緊張感のある演奏が続く。
9. Just Got Back from Baby’s
ヘヴィなギターリフとブルースシャウトが印象的な、アルバム随一の迫力を誇るナンバー。
“ベイビーの家から戻ってきたばかり”というシンプルな設定に、男の哀愁と衝動が詰まっている。
10. Backdoor Love Affair
閉じられた関係＝裏口からの恋という、ブルース定番のテーマを扱った締めくくりの一曲。
ディストーションの効いたギターと粘り気のあるヴォーカルが、退廃と妖艶さを際立たせる。
総評
『ZZ Top’s First Album』は、ブルースへの敬意とロックへの野心が交差する“テキサス産ロックンロールの原石”であり、後の大ヒット作へとつながる全ての要素が凝縮されたデビュー作である。
ラジオヒットには恵まれなかったものの、ローカルな熱量と職人気質の演奏によって、徐々にカルト的支持を獲得していった。
ここで聴けるのは、洗練やポップ性ではなく、“土臭さ”と“粘り強さ”、そしてブルースの形式をいかにしてロックへ変換するかという試行錯誤の痕跡である。
ZZ Topという存在が“グラマラスではないが、骨太でユニークなロック”の象徴となった原点が、まさにこのアルバムなのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Rory Gallagher – Rory Gallagher (1971)
同年発のブルースロック名盤。ギター中心の荒々しさが共通。 - Johnny Winter – Second Winter (1969)
テキサス・ブルースの神髄。ギターの切れ味とグルーヴ感がZZ Topと呼応。 - Canned Heat – Boogie with Canned Heat (1968)
ブギー／ブルース志向のロックンロール。『Certified Blues』的アプローチに近い。 - Lynyrd Skynyrd – Pronounced ‘Lĕh-‘nérd ‘Skin-‘nérd (1973)
南部の泥臭さとメロディ感の融合。サザンロックの王道としての接点。 - The Allman Brothers Band – Idlewild South (1970)
ジャム的展開とブルースの情感が深い。『Old Man』的スロー・チューンと共鳴。
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