発売日: 2007年5月7日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、グラムロック、ポストパンク・リバイバル、ハードロック
帰ってきた“バンド”の轟音——Manic Street Preachers、闘争と快楽のバランスを取り戻した復活作
『Send Away the Tigers』は、Manic Street Preachersが2007年にリリースした8作目のスタジオ・アルバムであり、彼らが“ロックバンドとしての自信”を再獲得し、ポリティクスとポップ、怒りと祝祭を見事にブレンドしてみせた再生の狼煙である。
前作『Lifeblood』での内省的な電子的アプローチから大きく舵を切り、本作ではギター・ロックへの原点回帰と、グラム的な高揚感、そして80年代のポストパンク的疾走感が混ざり合う明快なサウンドが展開される。
その結果、Manics史上もっとも“キャッチー”で“パンク的エネルギー”に満ちた作品となり、批評家・ファン双方から熱烈な支持を得た。
タイトルは英軍兵士のスラングから取られており、“Send away the tigers”とは「心の闇を追い払う」という意味。
この作品自体が、精神的にも音楽的にも“虎=鬱屈”を払いのけるような音の解放となっている。
全曲レビュー
1. Send Away the Tigers
アルバムを象徴するタイトル曲。歪んだギターと高揚感あるリフで、“再始動”の宣言を高らかに鳴らす。
2. Underdogs
ファンへのアンセム的ロックナンバー。「俺たちはいつも負け犬だが、それでいい」と歌う姿勢が痛快。
3. Your Love Alone Is Not Enough(feat. Nina Persson)
The CardigansのNina Perssonとのデュエット曲。甘くも切ないメロディに、冷たさと温かさが同居するポップロックの金字塔。
4. Indian Summer
ブライアン・フェリーやThe Smithsの影響を感じさせる耽美なギター・サウンド。過去への憧憬と今を生きる痛みが交錯する。
5. The Second Great Depression
タイトル通りの陰りあるナンバー。2000年代初頭の経済・社会的混迷を、私小説的トーンで描写。
6. Rendition
CIAの“身柄引き渡し(rendition)”をテーマにした政治的ロック。暴力と正義の曖昧さをギターとドラムで叩きつける。
7. Autumnsong
メジャー感あふれるアンセム。“秋”という季節の中に、老いと美、喪失と再生を詰め込んだ祝祭的な1曲。
8. I’m Just a Patsy
タイトルはJFK暗殺犯の言葉に由来。社会の“スケープゴート”としての人間像を、自嘲的に歌い上げる。
9. Imperial Bodybags
戦争とメディア、国家の欺瞞を激しく暴き出す短く鋭い一撃。まさに“Manics的プロテストソング”。
10. Winterlovers
アルバムを締めくくる、優雅でエモーショナルなトラック。冬の恋人たちに託された、再生と受容の物語。
総評
『Send Away the Tigers』は、Manic Street Preachersが“自己回復”を遂げ、かつてのラウドで誇り高い自分たちを取り戻したアルバムである。
ここにあるのは、政治的メッセージとポップの快楽、個人の陰影と社会的主張、それらをすべて“音楽”というエネルギーでつなぎとめる、バンドとしての自信と成熟。
90年代的な重さや2000年代前半の実験性を経て、彼らはこのアルバムでようやく“3分間のロックンロール”の力を信じられるようになった。
それは決して後退ではなく、複雑さのなかから選び取ったシンプルさ——痛みを知る者だけが鳴らせる“明るい爆音”なのだ。
おすすめアルバム
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Everything Must Go / Manic Street Preachers
ポップと哀しみの均衡点を描いた、Manics流再生の原点。 -
The Black Parade / My Chemical Romance
グラム/パンク精神とメロディックな構成力を持つ、00年代のロック・オペラ。 -
Young for Eternity / The Subways
ギターロックの原初的エネルギーを感じさせる若々しい疾走感。 -
Costello Music / The Fratellis
祝祭感とラフなロックンロールが弾ける、2000年代のポップ・グラム系代表作。 -
The Holy Bible / Manic Street Preachers
本作と対照的な、重厚かつ内省的な怒りの記録。バンドの深層を知るなら必聴。
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