
発売日: 2001年
ジャンル: エレクトロ・ダブ、ブレイクビーツ、アヴァン・レゲエ、バスク・パンク再構築
概要
『erREMIXak』は、バスク地方出身の政治的アーティストFermin Muguruza(フェルミン・ムグルサ)が2001年にリリースしたリミックス・アルバムであり、彼の過去作――特に『Brigadistak Sound System』を中心とする――を、世界各地のアーティストが再解釈した“ポスト・ナショナルなダンス・レジスタンス”の実験場である。
タイトルの「erREMIXak」はバスク語と英語を組み合わせた造語であり、“REMIX”に小文字の「er」が加わることで、「再構築/革命(revolution)」の含意が加わる。
つまり、これは単なるクラブ・リミックスではなく、“記憶された闘争のビートを、21世紀的ビートで再武装する”というムグルサ的再定義なのだ。
本作にはフランス、ドイツ、メキシコ、日本、バスクなど、各地のアーティストが参加しており、グローバルな政治的・音楽的ネットワークの中で、ムグルサのメッセージが新たな形で響き直されている。
主なトラック解説
1. FM 99.00 Dub Manifest (Mungos HiFi Remix)
スコットランドのダブ・コレクティブによる重厚なリミックス。
オリジナルのポリティカル・ダブが、さらにスモーキーかつクラブ対応のボトムへと強化。
スピーカーで“闘争”を体感する仕様。
2. Black is Beltza (Gotan Project Remix)
タンゴ・ヌエーヴォとヒップホップの中間を行くGotan Projectによる再構築。
ピアソラ的なバンドネオンが加わることで、“バスク×南米ディアスポラ”の情緒が立ち上がる。
3. Borreroak baditu milaka aurpegi (Asian Dub Foundation Remix)
ロンドンの政治的ダブ集団による激烈な再構築。
ドラムンベース、ジャングル、インダストリアル・ダブが融合し、楽曲の暴力性が倍加。
ファシズム批判のトラックとして原曲以上に苛烈。
4. Maputxe (Sistema Solar Remix)
コロンビアのクンビア×エレクトロ・クルーによるラテン再編。
トロピカルなポリリズムが加わり、先住民闘争の歌が“祝祭としての抵抗”へと転調する。
5. Hitza Har Dezagun (Shing02 + DJ Krush Remix)
日本からのコラボで、Shing02の新録詩とDJ Krushのビートが融合。
バスク語、英語、日本語が交錯する、多言語的ポリフォニーの極致。
まるで世界市民による“サウンド憲章”のような存在感。
総評
『erREMIXak』は、Fermin Muguruzaが提示する“抵抗の音楽”を、グローバルな音楽言語によって翻訳/再武装するアルバムであり、政治的意志とクラブカルチャーが交差する稀有なプロジェクトである。
単なる“踊れるリミックス”ではない。
これは“世界各地の運動と感情をビートで繋げる”ための実践であり、闘争が国境を越え、言語を超え、ビートとして共有されることの可能性を示している。
そして何より、“ポスト植民地主義的ダンスホール”としての音楽のあり方を問い直すという点で、2000年代初頭における最も意義深い政治的リミックス作品の一つといえる。
おすすめアルバム(5枚)
-
Transglobal Underground / Yes Boss Food Corner
グローバルビートとレジスタンスの融合。音楽の越境性において共鳴。 -
Thievery Corporation / The Richest Man in Babylon
ラウンジと反帝国主義の交差点。スタイルとメッセージの並走が類似。 -
Asian Dub Foundation / Community Music
ポリティカル・ブレイクビーツの金字塔。erREMIXakと並ぶ“音の国際主義”。 -
Nitin Sawhney / Beyond Skin
文化アイデンティティと戦争批判を織り交ぜた音楽詩。思想性が近い。 -
Rachid Taha / Made in Medina
アラブ・パンクの旗手による、怒りと熱狂のサウンドレジスタンス。
コメント