発売日: 1998年9月28日
ジャンル: パワーポップ、ロック
90年代後半に甦ったThe Knack——オリジナルのエネルギーを取り戻した傑作
1979年に 「My Sharona」 でパワーポップの頂点を極めた The Knack は、急激な成功と批判に晒されながらも、80年代初頭にかけて3枚のアルバムを発表。しかし、1981年の Round Trip を最後に一度解散。その後、1991年の Serious Fun でカムバックを果たしたものの、商業的には成功せず、再びバンドは活動休止状態となった。
そして1998年、バンドは再びスタジオに入り、オリジナルメンバーの Doug Fieger（Vo, Gt）、Berton Averre（Gt）、Prescott Niles（Ba）に加え、新たに Terry Bozzio（Dr, 元Missing Persons, Frank Zappaバンド）を迎えて制作したのが、本作 Zoom である。
このアルバムは、The Knack が1979年のデビュー時に持っていたエネルギーを取り戻しつつ、より成熟した楽曲構成と演奏力を兼ね備えた作品 となっており、多くのファンから「80年代の迷走を経て、The Knack 本来の姿に戻ったアルバム」として高く評価されている。
全曲レビュー
1. Pop Is Dead
アルバムのオープニングを飾る、The Knack らしいキャッチーで攻撃的なロックナンバー。タイトル通り、音楽業界のポップミュージックへの批判を込めた歌詞が印象的。
2. Can I Borrow a Kiss
軽快なギターリフとキャッチーなメロディが特徴の楽曲で、デビューアルバム Get the Knack の頃を思わせるサウンド。
3. Smilin’
ポップなコーラスワークとダンサブルなリズムが際立つ楽曲。軽快で心地よいパワーポップサウンドが展開される。
4. Ambition
シンプルながらも力強いギターリフが特徴の楽曲。Doug Fieger のボーカルがエモーショナルに響く。
5. Mister Magazine
メディア批判をテーマにしたナンバー。ポップでありながら、エネルギッシュな演奏が魅力。
6. Everything I Do
バラード調のナンバーで、バンドのメロディメイカーとしてのセンスが光る一曲。感情豊かなボーカルと美しいアコースティックアレンジが特徴。
7. Love Is All There Is
シンプルながらも、The Knack らしいフックのあるポップナンバー。
8. Terry & Julie Step Out
60年代のポップソングに影響を受けたような雰囲気を持つ、レトロな楽曲。The Kinks の「Waterloo Sunset」に登場する Terry & Julie へのオマージュとも考えられる。
9. Harder On You
ブルージーな要素を持ち、ギターのリフが際立つロックナンバー。
10. You Gotta Be There
キャッチーなメロディラインが特徴のアップテンポなナンバー。
11. Good Enough
シンプルながら力強いメロディと演奏が印象的なパワーポップの典型的な楽曲。
12. In Blue Tonight
ジャジーでムーディーなアプローチを見せる異色のトラック。バンドの音楽的幅広さを感じさせる。
13. Tomorrow
アルバムの中でも最も The Knack らしい楽曲のひとつ。ギターとコーラスの絡みが心地よい。
14. (All in The) All in All
アルバムのラストを飾る、しっとりとしたナンバー。成熟したアレンジが印象的。
総評
Zoom は、The Knack が本来持っていたパワーポップのエネルギーを取り戻しながらも、90年代の音楽シーンに適応した作品 である。1979年の Get the Knack に匹敵するキャッチーさを持ちながら、演奏やアレンジの面でより洗練されたアプローチが感じられる。
特に、新たに参加した Terry Bozzio のドラムがバンドに新たなダイナミズムを加え、グルーヴ感が増している点は注目すべきポイントである。しかし、リリース時期が グランジやオルタナティブロック全盛の1998年 だったこともあり、商業的には成功を収めることはできなかった。
それでも、後年の再評価により、「The Knack の真のカムバック作」としてパワーポップファンの間では名盤のひとつとして語り継がれている。
おすすめのリスナー:
- 「My Sharona」だけではなく、The Knack の真の実力を知りたい人
- パワーポップの黄金時代を感じさせるアルバムを探している人
- Cheap Trick や The Cars のようなバンドが好きな人
おすすめアルバム
1. Cheap Trick – Woke Up With a Monster (1994)
90年代のパワーポップバンドの復活作として、Zoom と比較するのに最適な作品。
2. The Cars – Move Like This (2011)
80年代のバンドが再結成し、当時のサウンドをアップデートした作品として、共通点が多い。
3. Material Issue – Freak City Soundtrack (1994)
90年代のパワーポップの代表作で、The Knack の復活と同じ時期の空気感を持つ。
4. Fountains of Wayne – Welcome Interstate Managers (2003)
90年代以降のパワーポップの流れを汲む作品で、The Knack の影響を感じるバンド。
5. The Rubinoos – Party of Two (1999)
The Knack と同時代のバンドが、90年代に発表した作品として比較すると面白い。
Zoom は、The Knack のキャリアの中でも最も過小評価されたアルバムのひとつであり、1979年のエネルギーを現代的に昇華させた意欲作 である。グランジやオルタナ全盛期の影に隠れてしまったが、パワーポップの歴史を語る上で欠かせない作品であり、今こそ再評価されるべきアルバム だ。
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