Yonlapa Insomnia(2020)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Insomnia」は、タイ・チェンマイ発のインディーポップバンドYonlapaが2020年に発表した楽曲であり、眠れない夜に浮かぶ記憶や孤独感、未練と希望が交錯する感情の迷宮を、繊細なサウンドと夢幻的な歌声で描いた作品である。タイトルの「Insomnia(不眠)」が象徴するように、夜の静けさの中で心だけが目覚め続けている状態が、この曲の核となっている。

歌詞は非常にシンプルかつ内省的で、「眠れない」「あなたをまだ忘れられない」といった情景が淡々と語られる。だが、その語りには決して重たい感情の押しつけはなく、むしろ**“心が宙に浮かんでいるような脱力感と美しさ”**があり、Yonlapaの楽曲に共通する“儚い感情の余韻”が全編にわたって漂っている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Insomnia」はYonlapaがバンド初期に発表した代表的楽曲のひとつであり、ドリームポップ/インディーロックの潮流を汲んだミニマルでメランコリックな世界観がリスナーの間で高く評価された。特にこの曲は、英語詞でありながらアジア的な感情の奥ゆかしさや静けさを巧みに表現しており、国境を越えて“共感”される普遍的な感情の記録とも言える。

ヴォーカルを務めるNoi Yonlapaの声は、まるで夢の中でささやかれるような質感を持ち、楽曲全体の“眠れない夜の空気”を完璧に体現している。インストゥルメンタルもまた、リバーブの効いたギター、ゆるやかなリズム、空間的なレイヤーによって構成され、リスナーを“音の夢”の中へと誘うような没入感を生んでいる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Yonlapa “Insomnia”

I can’t sleep tonight
今夜も眠れない

Thought I’ve already moved on
もう前に進めたと思ってたのに

But you came back to me in a dream
でも、あなたが夢に出てきた

And everything falls apart
そしてすべてが崩れていった

この導入部では、平静を装っていた“自分”が、夢の中でふと元恋人の存在に揺さぶられ、心の均衡を崩されていく様子が描かれる。夜という時間、夢という無意識の空間が、抑えていた感情を静かに引き戻してしまう構図が印象的である。

Now I’m lying here alone / Thinking of you
いま、ひとりベッドに横たわって/あなたのことを考えてる

Can’t tell if it’s love / Or if it’s just habit
これが愛なのか/ただの“なれ”なのか、わからない

この部分では、未練とも呼べない曖昧な感情と、時間の経過による麻痺との間で揺れる心が浮き彫りになる。人が夜に陥る孤独と混乱、そして“わからなさ”そのものが、Yonlapaらしい淡々とした語り口の中で強く響いてくる。

4. 歌詞の考察

「Insomnia」の歌詞は、**恋愛の終わりとその後に訪れる“静かな混乱”**を非常に繊細に捉えている。失恋ソングによくある“涙”や“怒り”ではなく、ここにあるのはもっと希薄で、しかし深く根を張る感情の残滓である。

とくに印象的なのは、“これがまだ愛なのか、それともただの習慣なのか”という自己問い。Yonlapaは感情を断定せず、むしろ揺れる心の状態そのものを肯定しており、それがリスナーにとっての“癒し”や“共鳴”を生む要因となっている。眠れない夜に何度も思考がループすること、そしてその中で少しだけ心が緩む瞬間──それをYonlapaは、ことば少なに、でも確かなタッチで描いている。

また、“夢”というモチーフの使い方も秀逸で、過去の恋人が夢の中に現れるという情景は、無意識下にある未処理の感情を象徴している。それを否定するのではなく、静かに受け入れる姿勢がこの曲の美しさとやさしさにつながっている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Night Shift” by Lucy Dacus
    別れた後の夜の過ごし方を描いた、静かで強いエモーショナルソング。

  • “No Song Without You” by HONNE
    眠れない夜の愛と未練、そしてローファイな優しさが共鳴する一曲。

  • “Shampoo Bottles” by Peach Pit
    別れた相手の痕跡とともに過ごす、喪失と愛着の曖昧な感情を描いた曲。

  • “Untourable Album” by Men I Trust(アルバム)
    Yonlapaと同じく、淡いリズムと感情の断片で構成された内省的な楽曲が揃う。

6. “眠れない”という心の声──静けさの中にある混乱と美しさ

「Insomnia」は、“眠れない夜”というごくありふれた体験を、詩と音によって“誰の心にもある感情の記録”に昇華した楽曲である。 Yonlapaはこの曲で、喪失や未練をセンチメンタルに飾ることなく、ありのままの“不安定さ”を浮遊するようなメロディに乗せて差し出している。

そしてその中には、聴き手の心の奥にある小さな“残り火”が反応する余地があり、「ああ、これは自分の夜のことかもしれない」と思わせる普遍性が宿っている。Yonlapaの音楽の魅力は、まさにこの“静けさの中にある深さ”にあるのだろう。

「Insomnia」は、夜の孤独をそっと抱きしめるような、音と詩によるやさしいドリームポップの祈りである。

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