
発売日: 1977年3月17日
ジャンル: プログレッシブ・ロック、クラシカル・ロック、アートロック
三者三様の美学が交錯する、異形のモニュメント
『Works Volume 1』は、Emerson, Lake & Palmerが1977年にリリースした2枚組アルバムであり、バンド史上もっとも野心的で、同時にもっとも分裂的な作品である。
本作の特徴は、各メンバーに1面ずつが割り当てられ、4面目にようやくグループとしての共演曲が現れるという異例の構成にある。
この形式は、メンバーそれぞれの音楽的嗜好の違いを如実に表すものであり、結果としてキース・エマーソンのクラシック志向、グレッグ・レイクのメロディ志向、カール・パーマーのパーカッション探求が個別に展開されることとなった。
それぞれが単体でキャリアを築けるほどの実力者だったからこそ成立した形態だが、同時にバンドとしてのまとまりの限界も暗示している。
全曲レビュー
Disc 1 – Side A: キース・エマーソンによるピアノ協奏曲
Piano Concerto No. 1
三楽章から成る完全オリジナルのクラシック作品。
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との共演により、ロックという枠組みを越えた真の現代音楽に挑戦している。
とりわけ第二楽章の情感と、終楽章の目まぐるしい技巧は圧巻。
Disc 1 – Side B: グレッグ・レイクのメロディックな楽曲群
Lend Your Love to Me Tonight
オーケストラを伴ったロマンティックなバラード。
愛にすがる男の弱さが、グレッグの美しい声に乗って描かれる。
C’est la Vie
最も有名な曲の一つで、アコースティックギターとアコーディオンが奏でるシャンソン風の名曲。
「人生とはそういうものさ」という諦観が、静かな余韻を残す。
Hallowed Be Thy Name
ストリングスとコーラスを多用した壮大な構成。
宗教的モチーフを感じさせるタイトル通り、内省的なトーンが印象深い。
Nobody Loves You Like I Do
繊細でパーソナルなラブソング。
グレッグのソロ活動にも通じる、叙情と誠実さに満ちた一曲。
Closer to Believing
叙情的でドラマティックなクロージング。
「信じること」に救いを見出そうとする、崇高なバラードである。
Disc 2 – Side A: カール・パーマーのパーカッションの世界
The Enemy God Dances with the Black Spirits
プロコフィエフのモチーフを基にしたオーケストラ・パーカッション作品。
荘厳でシネマティックな迫力がある。
L.A. Nights
ジャズ・ファンク調のフュージョン作品で、ジョー・ウォルシュがギター参加。
スリリングなグルーヴと都会的なクールさが同居する。
New Orleans
ニューオーリンズ・スタイルのマーチング・ジャズ。
トラディショナルな要素を遊び心で再構築した作品。
Two Part Invention in D Minor
バッハ風の短い鍵盤作品。
クラシックとロックの境界線をなぞるような試み。
Food for Your Soul / Tank
ドラムソロ主体のサイケデリックなアレンジ。
1970年の「Tank」をリワークし、エレクトロニクスの要素を強調している。
Disc 2 – Side B: グループ全員による共演曲
Fanfare for the Common Man
アーロン・コープランドの作品をロックに翻案した、ELPを代表するアンセム。
モーグ・シンセによる壮大な旋律と、重厚なリズムが原曲に新たな生命を吹き込んでいる。
Pirates
19世紀の海洋冒険を描いた大作。
オーケストラを駆使し、映画のようなスケールで展開される音のドラマ。
グレッグの語りのような歌唱と、キースの劇的な作編曲が融合した絢爛たる名曲である。
総評
『Works Volume 1』は、ELPというバンドの集合と分裂、その両方を同時に表現した記録である。
各メンバーの音楽的ヴィジョンが個別に展開されることで、個としての強さが際立つ一方、グループとしての統一感や爆発力はやや後退している。
だが、それは決してネガティブな意味ではない。
むしろこのアルバムは、“バンドとは何か”“個と全体はいかに共存しうるか”というテーマに真正面から向き合った、ロックにおける芸術的実験の一つなのだ。
プログレッシブ・ロックが到達した一つの終着点、あるいは岐路として、この作品の持つ意味は決して小さくない。
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