Wire Ex Lion Tamer(1977)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Ex Lion Tamer」は、Wireの1977年のデビューアルバム『Pink Flag』に収録された楽曲のひとつであり、パンキッシュなスピード感とアイロニカルな歌詞が融合した、印象深いナンバーである。タイトルの“Ex Lion Tamer(元ライオン使い)”は文字通りには猛獣使いという職業を指すが、ここでは明らかに比喩的な意味を持って使われている。

歌詞全体は、テレビの視聴者がどんどん受動的になり、情報に対して無関心になっていく様子や、暴力や権力への無感覚、感情の鈍化を皮肉たっぷりに描いているようにも読める。Wireが得意とする「日常の中に潜む異常性」を凝縮したような歌詞で、都市生活の機械化や退屈、そして消費される情報の連続性がテーマとなっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Ex Lion Tamer」が収録された『Pink Flag』は、1977年というパンクロック最盛期に登場しながらも、その簡潔な構成と極端なまでのミニマリズム、そしてアイロニーを帯びた知的な視点によって、他のパンク・バンドとは一線を画していた。

Wireの歌詞の多くは、社会的な状況や都市生活の中に潜む違和感を扱っており、「Ex Lion Tamer」もその一例である。バンドの中心的存在であるコリン・ニューマン(Colin Newman)は、単に怒りや反抗をぶつけるのではなく、現代社会の構造や習慣に対して一歩引いたところから鋭く風刺を投げかけるスタイルを貫いていた。

本作では、日常のルーティン、特にテレビ番組表に従う生活を通じて、現代人の精神的な無力さと情報との関係性の変質が、辛辣に描かれている。テレビ、暴力、娯楽、麻痺する感情──それらがコンパクトにまとめられた2分足らずの楽曲の中に、Wireの哲学が濃縮されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Wire “Ex Lion Tamer”

Staying in again tonight
今夜もまた、家にこもる

And I think I’ll watch the fights
たぶん、ボクシングの試合でも観ようか

In my emptiness and corner
この空っぽな部屋の隅で

‘Til the timing is right
時が来るまでじっとしてる

この冒頭部分は、都市生活者の孤独と、感情の喪失、そして刺激を求めながらも行動を起こさない無気力さを描写している。娯楽としての「fights(試合、戦い)」は、テレビの前で消費される暴力の象徴でもあり、それが「ex lion tamer(かつての猛獣使い)」という存在の変化と重ね合わされていく。

You’re an ex lion tamer
お前は“元”猛獣使い

You can’t tame me
俺を手なずけることはできない

ここでは、力や威厳を持っていたはずの存在がもはや無力であることを示しており、「猛獣使い」だった誰かが、いまや情報や感情に溺れる側になっているという逆転が暗示されている。

4. 歌詞の考察

「Ex Lion Tamer」の歌詞は、現代人の自己の感情への鈍化、情報と暴力への無感覚、そしてそれに対する内なる違和感を鋭く捉えている。かつて“猛獣を手なずける側”であった人間(たとえば、メディアや社会に対して自立していた市民)が、今では“猛獣に食われる側”、つまり消費されるだけの存在になっているという構図が浮かび上がる。

Wireはここで、テレビというメディアが人間の感情や行動に与える影響、そして個人の主体性が徐々に損なわれていくプロセスを、暗喩的かつ批評的に表現している。現代人は情報の「受信者」でありながら、そこに自らの意志や批評性を持ち込むことができなくなっているのではないか。楽曲の主人公は、ただ試合を眺め、何かが変わることを静かに待つしかない。

また、「You can’t tame me」というフレーズは、見た目には反抗的であるが、すでに部屋にこもり、テレビの前にいるという状況そのものが、すでに“手なずけられている”ことの象徴にもなっており、反抗の無力さを皮肉る表現にもなっている。

Wireの歌詞はしばしば抽象的であるが、「Ex Lion Tamer」においては比較的直接的な言葉を使いつつも、背後には複層的なメッセージが込められており、それこそがこの曲の強みである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Three Girl Rhumba” by Wire
    同じく『Pink Flag』収録の短く鋭い楽曲で、都市の退屈さや繰り返しに対する皮肉を含んだ一曲。

  • “Art-I-Ficial” by X-Ray Spex
    メディアや人工性に対する批評的視点を持つパンクソング。Wireのスタンスと親和性が高い。

  • “Life During Wartime” by Talking Heads
    現代社会の不安や麻痺した日常をテーマにしながら、踊れるグルーヴで皮肉るスタイルが共通。

  • Ghost Town” by The Specials
    都市の荒廃や若者の孤独を冷静に見つめるトーンが、Wireの歌詞世界に近い。

6. 2分足らずの現代批評──短さに宿る鋭さ

「Ex Lion Tamer」は、Wireがパンクの最小単位を最大限に活用した傑作のひとつである。2分に満たないその短さにもかかわらず、描かれる世界観は広く深く、そして現代にも通用する内容を持っている。

1977年という時代は、テレビが娯楽と情報の中心でありながら、暴力や戦争の映像が日常の中に流れ込むようになった時代でもある。その中で、人々がどう感情を失い、どう無力化されていったのかを、「元猛獣使い」というメタファーを使って巧みに表現した本作は、まさに時代批評としてのパンクの真髄を体現している。

Wireはここで、怒鳴ることも、説教することもせず、淡々と歌う。その距離感が逆に、強烈なインパクトを与えてくる。現在のストリーミング文化やSNS時代にも通じる「受動性の暴力」を見事に射抜いた一曲である。

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