発売日: 2002年8月6日
ジャンル: ガレージロック、シューゲイザー、ノイズポップ
デンマーク出身のガレージロックデュオThe RaveonettesのデビューEP『Whip It On』は、2002年のロックシーンに鮮烈な印象を残した作品である。シューベルト・ワグナーとサニー・ローズ・ワグナーの2人が中心となったこのユニットは、1950年代のロカビリーと現代のノイズポップを融合させた独特のサウンドで注目を集めた。
このEPの最大の特徴は、全ての楽曲がB♭マイナーキーで書かれているというコンセプトだ。この制約により、アルバム全体がダークでミステリアスな雰囲気を持ち、統一感が際立っている。また、フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」を思わせる分厚いプロダクションや、ザラついたギターリフとドラムマシンの無機質なビートが、楽曲にクールでスタイリッシュなエッジを与えている。
本作は、その革新性と大胆なアプローチで批評家から高い評価を受け、バンドのデビューアルバム『Chain Gang of Love』への期待を大いに高めた。暗く妖艶な雰囲気を漂わせつつも、キャッチーなメロディがリスナーを引き込む『Whip It On』は、ガレージロックリバイバルの重要な一ページを刻む作品と言えるだろう。
トラックごとの解説
1. Attack of the Ghost Riders
EPの幕開けを飾る一曲で、ザラついたギターとシンプルなドラムマシンが際立つトラック。疾走感のあるリズムと攻撃的なサウンドが、The Raveonettesの特徴を端的に表現している。歌詞には荒廃的でダークなイメージが漂う。
2. Veronica Fever
エコーのかかったボーカルとリバーブの効いたギターが絡み合うミッドテンポのナンバー。妖艶でどこか懐かしい雰囲気が漂い、フィル・スペクターの影響を感じさせる。
3. Do You Believe Her
モノトーンの音像と、シンプルながらも耳に残るメロディが特徴的な一曲。繰り返されるギターフレーズと低音域のベースラインが、楽曲全体に深みを与えている。
4. Chains
ドラマチックな展開を持つ楽曲で、低く抑えたボーカルが神秘的な雰囲気を醸し出している。ギターのノイズが楽曲の後半に向かって盛り上がり、聴き手を圧倒する。
5. Cops on Our Tail
シンプルなビートとギターリフが繰り返される、ミニマルな構成のトラック。タイトルが示す通り、追跡劇を彷彿とさせる緊張感が楽曲全体に漂う。
6. My Tornado
どこか悲しげで内省的な雰囲気を持つ一曲。反復的なリフがサウンドスケープを支配し、曲全体にノスタルジックな感覚を与えている。
7. Bowels of the Beast
歪んだギターとダークな歌詞が印象的なトラック。低音のボーカルが、楽曲に不気味な魅力を加えている。アルバムの中でも特に暗いトーンを持つ一曲だ。
8. Beat City
EPを締めくくるエネルギッシュなトラック。高速のリズムとノイジーなギターが、シンプルながらも強烈なインパクトを残す。アルバム全体を象徴するような荒削りなエネルギーが感じられる。
アルバム総評
『Whip It On』は、The Raveonettesが持つ音楽的ビジョンを明確に打ち出したデビュー作であり、ガレージロックとノイズポップの融合を成功させた意欲作である。全編を通じて漂うダークで妖艶な雰囲気は、バンドの個性を際立たせ、後の作品への期待感を高めるものとなった。コンセプトの統一感と実験性が見事に融合した本作は、2000年代のガレージロックリバイバルを語る上で欠かせない一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Chain Gang of Love by The Raveonettes
『Whip It On』の後にリリースされたデビューアルバムで、よりポップでキャッチーなサウンドが特徴。
Psychocandy by The Jesus and Mary Chain
ノイズポップの代表作。荒々しいギターサウンドと甘美なメロディが『Whip It On』に通じる。
Is This It by The Strokes
ガレージロックリバイバルの代表作。ミニマルなサウンドとキャッチーなメロディが魅力的。
Primary Colours by The Horrors
ダークでノイジーなサウンドが特徴的なアルバムで、The Raveonettesの音楽性に共通する要素が多い。
Turn On the Bright Lights by Interpol
ダークでミニマルなサウンドが印象的なポストパンクの名作。雰囲気やトーンが『Whip It On』と共鳴する。
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