1. 歌詞の概要
「When I’m Thinking About You」は、The Sundaysが1997年に発表した3rdアルバム『Static & Silence』の中でも特にセンチメンタルな情感を湛えた楽曲である。この曲は、タイトルの通り「あなたのことを思う時」に生まれる、心のさざ波のような感情を優しく描写している。そこにあるのは熱烈な愛でも、悲痛な別れでもない。もっと静かで、もっと深くて、言葉にしにくい“人を想う時間”の情景なのだ。
歌詞は、日常のなかでふと訪れる思念や感傷に満ちているが、決して過剰には語らない。むしろその曖昧な余白の中にこそ、真の感情が宿っている。恋愛における確信のなさ、過去と現在の揺らぎ、誰かを想うことの切なさと優しさ。これらすべてが、ハリエット・ウィーラーの繊細な歌声と、浮遊するようなギター・サウンドに包まれ、詩のように紡がれていく。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Sundaysの『Static & Silence』は、彼らにとって最後のアルバムであり、そのタイトルが示すように、音楽的にも感情的にも「静けさ」や「間（ま）」に満ちている。その中にあって「When I’m Thinking About You」は、まるで風のように柔らかく、しかし芯のある存在感を放っている。
このアルバム制作時、バンドは公私ともに落ち着いた生活に入っており、ヴォーカルのハリエットとギタリストのデヴィッド・ガヴロンはパートナーとして家族を持つようになっていた。そうした環境の変化が、アルバム全体に漂う穏やかで内省的なムードを生み出し、「When I’m Thinking About You」にも反映されているのだろう。
この曲は、特定の物語を語るものではない。むしろリスナーのそれぞれの“誰かを想う時間”に寄り添うように設計されており、それこそがThe Sundaysが生み出す音楽の美しさである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I spent my time
私は時間を過ごしていたWatching the spaces that have grown between us
私たちの間に広がっていく距離を見つめながら
この冒頭のフレーズからして、語り手は「欠けたもの」や「距離」を静かに受け入れようとしている。愛や関係が変化していくさまを否定することなく、それを見つめている姿が描かれる。
And I do like you, but it’s love I’m needing
あなたのことは好き。でも私が本当に必要としてるのは「愛」なの
この一節では、”like”と”love”の微妙な違いを描きながら、語り手が自分自身の感情に気づき始めていることがわかる。「好き」では満たされないもの。「愛」に手が届かないもどかしさ。その繊細な差異が、静かに胸を打つ。
※歌詞引用元：Genius – When I’m Thinking About You Lyrics
4. 歌詞の考察
この曲における「あなたのことを思う時間」は、恋人と一緒にいる瞬間よりも、むしろ離れているとき、あるいはすでに終わった関係を振り返っているような印象を与える。何かを得ようとしているのではなく、すでに失ったものや、触れられないものに対してそっと心を寄せている。
The Sundaysは、常に“直接的な表現”を避けてきたバンドである。代わりに選ばれるのは、繊細な比喩と、語られない空白。そして「When I’m Thinking About You」にも、その詩的で控えめな美学が存分に宿っている。歌詞の一つ一つが、まるで日記の断片のように、曖昧で、それゆえに真実味がある。
また、音の構造も極めてミニマルだ。ギターの柔らかなアルペジオと、リズムセクションの控えめなビートが、歌詞の“沈黙を尊ぶ”トーンと完璧に一致している。聴いているうちに、まるで自分が誰かのことをふと考えてしまっているような、不思議な錯覚に陥る。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- In My Place by Coldplay
居場所のなさと想いのすれ違いを、エモーショナルに描いた叙情的ロック。 - Fade Into You by Mazzy Star
誰かとの距離を埋めたいのに埋められない、その感覚を漂うように描く名バラード。 - The Blower’s Daughter by Damien Rice
終わりゆく関係に対する執着と再生を、透明な言葉で綴ったラブソング。 - Motion Picture Soundtrack by Radiohead
愛の果てと、死のイメージすら抱える壮絶なラストソング。虚無の中に美がある。 -
Night Vision by Suzanne Vega
視線が合わない恋を、夜の風景に重ねたささやくような静寂の詩。
6. “思うこと”が、愛のすべてだった頃に
「When I’m Thinking About You」は、The Sundaysの音楽の中でも特に静謐で、日常に溶け込むような美しさを備えた楽曲である。この曲は、誰かを強く求めたり、過去を断ち切ろうとしたりするのではなく、“思い出すこと”自体が愛情の表現であると語っている。
恋愛の中心が「付き合っているかどうか」ではなく、「その人のことを思っている時間そのもの」にあるという感覚。これは、10代の衝動的な愛とは違い、静かに誰かを想い続ける大人の愛のかたちかもしれない。
この曲を聴いていると、誰かを思い出す時間が少しだけ大切に思えるようになる。声をかけることも、抱きしめることもできないけれど、心の中ではその人が確かに生きている——そのささやかな実感こそが、The Sundaysが残してくれた“音楽の愛”なのだ。
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