Whatever You Want by Status Quo(1979)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Whatever You Want」は、イギリスのブギー・ロックバンド、ステイタス・クォー(Status Quo)が1979年に発表したシングルであり、同年のアルバム『Whatever You Want』にも収録されている。タイトルの通り「君が望むものならなんでもいい」という言葉は、愛、欲望、自由、そして妥協や屈服といった二面性をも感じさせる。

歌詞は、恋人に対して「君の望むものを与える」と甘く語りかけながらも、その背後には「本当にそれでいいのか?」と問いかけるようなニュアンスが漂う。繰り返されるフレーズは一見ポジティブなようでいて、実は皮肉や虚無を感じさせる。つまり、「何でもいい」という言葉には、熱意や関心の喪失、自己放棄さえもにじんでいるのである。

こうした感情の交錯を、ステイタス・クォー特有のシンプルかつ力強いギターリフが支え、サウンドとしては非常にエネルギッシュでキャッチーに仕上がっている。そのギャップこそが、この曲の魅力である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Whatever You Want」は、ギタリストのリック・パーフィット(Rick Parfitt)とソングライターのアンディ・ボウン(Andy Bown)によって共作された楽曲である。1979年当時のステイタス・クォーは、70年代後半に入っても精力的にツアーを続け、英国を中心に高い人気を誇っていた。

この曲の特徴的なイントロ――クリーントーンのギターによる繊細なアルペジオから、突然荒々しいリフに突入する構成――は、まさにライヴでの盛り上がりを想定した作りになっており、以後ステイタス・クォーのコンサートの定番となる。

また、同名アルバムはバンドの円熟期にあたる作品で、バンドの個性である「シンプルさ」を極限まで磨き上げたサウンドが高く評価された。社会の複雑化やパンク以後の音楽シーンの混沌の中で、逆に“変わらないもの”を貫いたステイタス・クォーの姿勢が、この楽曲にも体現されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に印象的な一節を抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。

Whatever you want, whatever you like
君が望むこと、君が好きなことなら何でも

Whatever you say, you pay your money, you take your choice
君が言うことなら何でも。金を払って、好きなように選べばいいさ

Whatever you need, whatever you use
必要なものでも、使いたいものでも何でも

Whatever you win, whatever you lose
勝とうが負けようが、何だって構わない

(参照元:Lyrics.com – Whatever You Want)

この繰り返しの構文は、聴き手にある種の催眠的効果を与える。だがその裏に潜むのは、欲望の無限ループと、主体性の希薄さなのかもしれない。

4. 歌詞の考察

「Whatever You Want」の歌詞は、表面的には徹底して“迎合”の姿勢を貫いているように見える。だが、よく聴いてみると、その繰り返しが異様なまでに多く、むしろ「すべてを許容する」という姿勢が空虚であることを逆説的に暴いているようにも思える。

たとえば「you pay your money, you take your choice」という一節には、消費社会へのシニカルな視線も感じられる。金を払えば選べる、選ぶことができる――それが自由のようでいて、実際は管理された選択肢にすぎないのではないか。そうした現代社会の欲望構造を、この楽曲はシンプルな語彙でさりげなく描き出している。

また、恋愛関係における主従関係、相手の期待に応えることが逆に自分を見失わせる危険性についても、暗に示唆されているようだ。「君の望む通りにしてあげるよ」という言葉の背後に、「でも、僕は何を望んでいるんだろう?」という問いがうっすらと透けて見える。これは愛の歌でありながら、どこかで虚無の影を引きずっているのだ。

この“自己放棄の美学”こそが、ステイタス・クォーのシンプルなロックンロールに不思議な深みを与えている。単なる娯楽としてではなく、現代の心情風景を映し出す鏡として機能している点で、この曲はただのヒット曲にとどまらない。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • I Want It All by Queen
    欲望の奔流を力強く歌い上げる一曲。「Whatever You Want」とは逆方向ながらも表裏一体のテーマ。
  • You Could Be Mine by Guns N’ Roses
    直線的なロックと感情の爆発。対人関係における力関係を赤裸々に描く点で共鳴する。
  • Jump by Van Halen
    ポジティブな衝動に満ちたロックナンバーだが、その裏には不安定な熱狂がある。
  • Don’t Bring Me Down by Electric Light Orchestra
    繰り返しの中に“距離”と“違和感”を宿す、シンプルながら奥深いロックナンバー。

6. ステイタス・クォー流ポップ哲学の到達点

「Whatever You Want」は、ステイタス・クォーというバンドの“最も完成された形”と言っても過言ではない。シンプルな構成、反復するリフ、親しみやすいコーラス――それらすべてが、1970年代末のイギリスにおいて“ロックがどこへ向かうのか”という問いに対する、ある一つの答えだった。

パンクやニューウェイヴが台頭する中で、あえて変わらず、あえて同じパターンを反復し続ける。その態度は一見保守的に思えるが、実は極めて批評的である。「ロックとは何か?」「音楽とは何を与えるべきか?」という問いに、答えを出す代わりに“繰り返し”という形で問い直す――それが彼らの哲学だった。

この楽曲は、派手さはないが、聴けば聴くほど不思議な深みと空虚が交錯する。だからこそ、「Whatever You Want」は今なお多くのリスナーに響き続けている。ロックの愚直さと諦観、その両方を内包したこの一曲は、まさに1970年代英国ロックの裏の金字塔と言えるだろう。

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