アルバムレビュー：What the Future Holds by Steps

発売日: 2020年11月27日
ジャンル: ダンス・ポップ、エレクトロ・ポップ、ユーロポップ

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
6. 制作の裏側

概要

『What the Future Holds』は、Stepsが2020年にリリースした通算6作目のスタジオ・アルバムであり、
再結成後の活動を「懐かしさ」から「進化」へと本格的に転換した重要作である。

本作は、先行する『Tears on the Dancefloor』の方向性を踏襲しながらも、
よりスケール感のあるプロダクションと深い感情表現が際立つ作品となっている。

タイトル曲「What the Future Holds」は、Siaによる提供曲として話題となり、
未来への不安と希望を抱える現代人の心情を、ドラマティックなダンス・ナンバーとして昇華している。

全体を通じて、光と影のコントラスト、歓喜と哀しみの振幅が巧みに配されており、成熟したポップ・グループとしてのStepsの現在地が明確に刻まれている。

再び世界が揺れ動く2020年という年において、「未来とは何か」を見つめ直すようなアルバムである。

全曲レビュー

What the Future Holds

Siaがソングライターとして関与した本作の表題曲。
壮大なイントロとともに、「過去を受け入れ、未来に飛び込む」決意が歌われる力強いアンセム。
希望と不安がせめぎ合う時代の空気を、ダンス・ポップのスケールで表現している。

Something in Your Eyes

スウェーデンのユーロポップ・デュオJenny Silverのカバー。
ABBAを想起させる軽快なディスコ風サウンドで、グループのルーツを再解釈した一曲。
コーラスの絡みが爽快で、前作からの系譜を感じさせる。

Clouds

80年代風のエレポップ・サウンドに、愛の不確かさと希望が織り交ぜられた詩情豊かな一曲。
タイトル通り、曖昧な空模様を心象風景として投影している。

To the Beat of My Heart

ポジティブなメッセージがあふれる、明るく跳ねたダンスポップ。
“心臓の鼓動”をビートと重ねることで、愛と生のエネルギーを直感的に感じさせる。

Father’s Eyes

内省的なバラードで、“父親のまなざし”というテーマが家庭的でありながら普遍的な感情を喚起する。
シンプルなピアノアレンジが、リスナーの心に静かに寄り添う。

One Touch

ミニマルでクールなエレクトロ・トラックが特徴。
“ひとつの触れ合いがすべてを変える”というテーマが、夜の都会的ムードで描かれる。

Under My Skin

感情が抑えきれずに溢れるようなメロディラインとビートが絡み合う、アルバム中もっとも情熱的な一曲。
恋愛の中毒性や執着を美しく表現している。

Heartbreak in This City

ゲストにMichelle Visageを迎えたバージョンでも話題に。
恋愛の終焉と都市の孤独が重ね合わされた、現代的失恋ソング。
ビートは鋭く、サウンドはカラフルで、リスナーの感情を一気に揺さぶる。

Come and Dance with Me

リズミカルでキャッチーなクラブ・アンセム。
一体感を生み出す歌詞と構成で、ライブ向きのエネルギーに満ちている。

Don’t You Leave Us Halfway

愛情がすれ違う瞬間を繊細に切り取ったバラード。
“中途半端に去らないで”という心の叫びが、メロディに溶け込んでいる。

To the One

終盤を飾るエモーショナルなナンバー。
このアルバムが「未来への希望」であることを、静かだが確かな意思で伝えている。
コンサートで手を取り合うような、感動的なフィナーレを想起させる。

総評

『What the Future Holds』は、Stepsというグループの**“20年後の在り方”を象徴するアルバムである**。
単なるノスタルジーではなく、新たなフェーズへ向かう意志と覚悟、そして愛が詰まっている。

アルバム全体に通底するのは、「不安な未来」と「それでも進む希望」のコントラストであり、
その両極をダンスビートと抒情的メロディで見事に結びつけている。

Siaの参加によって“ポップの現在地”との接点も生まれ、
ただの再結成グループではない、「現役」としてのStepsの強さが明確に刻まれている。

過去の栄光を再演するだけではない、
「今、誰かの心に響く音楽」を真摯に作り上げたこの作品は、
ポップ・グループとしての成熟の証そのものである。

6. 制作の裏側

Siaを筆頭に、プロデューサー陣にはGreg KurstinやCarl Rydenらが名を連ねており、
英国ポップシーンの精鋭と現代USポップのエッセンスが交差したプロジェクトとなっている。

コロナ禍の影響を受けながらも、リモート制作や少人数セッションを駆使し、
時間と距離を超えて一体感を生み出した“新しい制作スタイル”が採用されたことも、本作の空気感に影響を与えている。

映像やビジュアル面でも統一感があり、アルバムのコンセプトは多角的に表現されている。

そのすべてが、「未来を見据えた今」をテーマに据えるこのアルバムの核心を支えているのだ。