発売日: 2024年5月3日
ジャンル: インディーポップ、オルタナティヴロック、ドリームポップ
概要
『What A Devastating Turn of Events』は、イギリスのシンガーソングライター、Rachel Chinouririが2024年に発表した待望のファースト・フルアルバムであり、彼女のこれまでのキャリアを総括し、さらに新たな領域へと踏み出した作品である。
『Four° In Winter』で見せた繊細な内省性を踏まえつつ、本作ではより大胆でエネルギッシュなサウンドアプローチを採用。
自身の成長、アイデンティティ、社会的テーマを包み隠すことなく描き出している。
制作陣には、インディー〜オルタナティヴロック界隈の新鋭プロデューサーたちが集結。
ギターを前面に押し出したトラックから、ドリーミーなバラード、ポストパンク調の攻撃的なナンバーまで、多彩なサウンドスケープが展開される。
また、Chinouriri自身の経験──特に人種やジェンダーに関する葛藤──が率直に描かれており、アルバムタイトルが示すように、人生の”思いもよらぬ転機”を真正面から受け止める姿勢が強く打ち出されている。
この作品は、彼女が”静かなる新星”から、確かな存在感を放つアーティストへと飛躍したことを示す重要作となった。
全曲レビュー
1. Garden of Eden
アルバムの幕開けを飾る、浮遊感あふれるインディーポップ・ナンバー。
夢見るようなギターと、ささやくようなボーカルが、”無垢な理想郷”への憧れを描く。
2. The Hills
ポストパンク的な鋭いギターリフが印象的な曲。
都会の孤独と自己喪失をテーマに、暗くもダンサブルなビートが絡み合う。
3. Never Need Me
自己肯定をテーマにした、力強くも哀しみを滲ませるバラード。
伸びやかなサビメロディが、聴く者の胸に静かに迫る。
4. All I Ever Asked
リードシングル。
恋愛における最低限の思いやりすら満たされないもどかしさを、シンプルなポップサウンドに乗せて歌い上げる。
キャッチーながらも切実な響きを持つ一曲だ。
5. My Blood
自身のルーツ──アフリカ系イギリス人としての誇りと葛藤──を赤裸々に綴った重要曲。
エモーショナルなギターサウンドと、怒りを孕んだボーカルが生々しい。
6. It Is What It Is
運命を受け入れるしかない虚しさを、乾いたリズムとクールな語り口で描写。
アルバム中盤のクールダウン的な役割を果たす。
7. Dumb Bitch Juice
タイトル通りの挑発的な楽曲。
自己嫌悪と自虐を笑い飛ばすかのようなエネルギーに満ちた、ガレージロック調の一曲である。
8. Robbed
裏切りや喪失の痛みを、メランコリックなメロディとともに描く。
柔らかなアコースティックギターと、儚げなコーラスが印象的。
9. Maybe I’m Lonely
シンプルながら心に刺さるナンバー。
孤独を受け入れる勇気を、囁くようなトーンでそっと歌い上げる。
10. It’s Me, I’m the Problem
自己認識と自己批判をテーマにした痛烈な曲。
軽快なリズムの裏に、深い自己分析が隠されている。
11. What A Devastating Turn of Events
アルバムタイトル曲にして、エモーショナルなクライマックス。
人生に起きる想定外の悲劇を、力強く、しかし悲しみに沈まずに受け止める意志が描かれる。
12. Pocket
エピローグのような小品。
日常のささやかな喜びと、小さな希望をそっとすくい取る、優しいラストトラックである。
総評
『What A Devastating Turn of Events』は、Rachel Chinouririのアーティストとしての成熟を鮮やかに示した作品である。
彼女がこれまで築き上げてきた繊細な感受性はそのままに、今作ではよりエネルギッシュで、多面的な表現に踏み込んでいる。
リリックの面では、失恋や孤独といった個人的なテーマから、アイデンティティや社会的疎外といった普遍的な問題まで幅広く扱われている。
それでもなお、重苦しさを感じさせず、どの曲にも微かな希望やユーモアが息づいているのがChinouririの真骨頂だ。
サウンド面でも、多様なジャンルを自由に横断しながら、決して散漫にならず、アルバム全体としてしっかりと統一感を保っている。
特に「My Blood」「What A Devastating Turn of Events」といった楽曲においては、彼女の声そのものが、傷つきながらも歩み続ける人間の強さを体現している。
この作品は、Rachel Chinouririが単なるインディーポップシンガーではなく、次代を担うストーリーテラーであることを確信させる一枚であり、
今後のさらなる飛躍を大いに期待させる。
おすすめアルバム（5枚）
- Arlo Parks『My Soft Machine』
繊細な感情表現とモダンなポップサウンドがChinouririと重なる。 - Beabadoobee『Beatopia』
ノスタルジックなギターサウンドと内省的なリリックが共鳴する。 - Mitski『Laurel Hell』
個人的な痛みをダンサブルなポップに昇華するセンスが近しい。 - Wolf Alice『Visions of a Life』
ジャンルを超えて感情のグラデーションを描く手法に共通点がある。 - Florence + the Machine『Dance Fever』
ドラマティックな展開と、自己探求のテーマがリンクする。
ビジュアルとアートワーク
『What A Devastating Turn of Events』のジャケットは、青みがかった曇天の下でひとり佇むChinouririを捉えたものである。
モノクロームに近いトーンと、わずかに差し込む光が象徴するのは、絶望と希望の間に揺れる心の風景だ。
また、ミュージックビデオでは、過去の自分自身や、周囲から押し付けられる期待と闘う姿が象徴的に描かれており、
アルバム全体に通底する「傷つきながらも生きる」というテーマをヴィジュアル面でも強く打ち出している。
ビジュアルとサウンドが有機的に結びつくことで、『What A Devastating Turn of Events』はより深い感動をリスナーに与えるのだ。
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