
発売日: 2006年5月23日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、スペース・ロック、ポストハードコア
宇宙への飛翔——Tom DeLongeの新たな音楽的ビジョン
2005年にBlink-182が活動休止した後、ギタリスト兼ヴォーカリストのTom DeLongeは、従来のポップパンクの枠を超えた壮大な音楽を創り出すことを決意した。そして誕生したのが、Angels & Airwaves(AVA)である。
デビューアルバムWe Don’t Need to Whisperは、U2やPink Floydのようなアンセミックなサウンドスケープと、ポストハードコアの要素を融合させた、スペース・ロック的なアプローチを特徴としている。スケールの大きなサウンドと希望に満ちた歌詞が印象的で、Blink-182時代の直感的でカジュアルなスタイルとは一線を画している。
全曲レビュー
1. Valkyrie Missile
宇宙的なサウンドスケープとエフェクトの効いたギターが印象的な、壮大なオープニング・トラック。6分以上の長尺で、従来のTom DeLongeの楽曲とは異なるアプローチが取られている。希望と未来への憧れをテーマにした歌詞が、アルバム全体のコンセプトを象徴している。
2. Distraction
リバーブの効いたギターとアンビエントなシンセが、広がりのあるサウンドを作り出す。力強いドラムとエモーショナルなメロディが印象的で、戦争や世界の混乱を背景にしながらも、未来への希望を描く。
3. Do It for Me Now
シンプルなギターリフとエモーショナルなヴォーカルが特徴の楽曲。Tom DeLonge特有の鼻にかかったヴォーカルが際立ち、切実な感情がストレートに伝わる。愛と喪失をテーマにした、メロディアスなナンバー。
4. The Adventure
本作を代表するアンセム的な楽曲であり、AVAの象徴的なサウンドを確立した名曲。エネルギッシュなドラムとキラキラとしたギターリフが、希望に満ちた雰囲気を作り出している。歌詞は新たな旅立ちと人生の冒険をテーマにしており、キャリアの転換点を迎えたDeLonge自身の想いが込められている。
5. A Little’s Enough
静かなイントロから壮大なクライマックスへと展開する、ドラマティックな楽曲。スローテンポながらも力強く、U2の影響を強く感じさせる。人間の可能性と希望を歌い上げる歌詞が、聴く者にインスピレーションを与える。
6. The War
激しいドラムと分厚いギターサウンドが特徴の、力強いトラック。戦争の混乱とそれに対する批判をテーマにした歌詞が印象的で、AVAの中でも特にエネルギッシュな楽曲の一つ。Blink-182のパンク的な衝動を残しつつも、より壮大なアプローチが施されている。
7. The Gift
浮遊感のあるシンセとエフェクトがかかったギターが幻想的な雰囲気を生み出す。メロディアスなボーカルラインが際立ち、アルバムの中でも特にスペース・ロック的なアプローチが強い楽曲。
8. It Hurts
ダークなトーンを持つ楽曲で、失恋や絶望をテーマにしている。従来のポップパンク的な切なさが残りつつも、ドラマティックな展開が特徴的。クライマックスに向けてのビルドアップが印象的。
9. Good Day
幸福感に満ちた楽曲で、柔らかいギターと心地よいメロディが印象的。歌詞は人生の美しさやポジティブなエネルギーを描いており、アルバムの中でも明るい雰囲気を持つ。
10. Start the Machine
アルバムを締めくくる、美しくも切ないバラード。アコースティックギターとシンプルなアレンジが、Tom DeLongeのエモーショナルな歌声を際立たせる。歌詞は新しい未来への希望と、過去との決別をテーマにしており、Blink-182からの転換を象徴する楽曲となっている。
総評
We Don’t Need to Whisperは、Tom DeLongeの音楽的ビジョンを全面に押し出した作品であり、従来のBlink-182のポップパンクとは全く異なる方向性を打ち出したアルバムだ。
U2やThe Cure、Pink Floydといったアンセミックで広がりのあるサウンドを持つアーティストの影響が色濃く反映されており、スペース・ロック的な要素を取り入れた壮大な作風となっている。
アルバム全体を通じて、「未来」「希望」「変化」「旅立ち」といったテーマが繰り返されるため、ポジティブなエネルギーを感じることができる。しかし、過去のファンの中には、Blink-182のストレートなパンクサウンドを期待していた人も多く、本作のシリアスでドラマティックな方向性に戸惑いを感じたリスナーも少なくなかった。
結果的に、本作は新たなリスナー層を開拓しつつも、旧来のファンとの間に賛否を生むアルバムとなった。しかし、Angels & Airwavesというバンドのアイデンティティを確立したという点で、極めて重要な作品である。
おすすめアルバム
- U2 – The Joshua Tree (1987)
広がりのあるギターとアンセミックなメロディが共通する。 - 30 Seconds to Mars – A Beautiful Lie (2005)
宇宙的なサウンドスケープとエモーショナルな歌詞がAVAと似た方向性を持つ。 - The Cure – Disintegration (1989)
叙情的なシンセと浮遊感のあるギターが、本作のダークな側面と共通。 - Blink-182 – Neighborhoods (2011)
Tom DeLongeの影響が色濃く出た、Blink-182の中で最もAngels & Airwavesに近い作品。 - M83 – Hurry Up, We’re Dreaming (2011)
ドリーミーでシネマティックなサウンドが、AVAのスペース・ロック的アプローチと通じる。
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