1. 歌詞の概要
「Was There Anything I Could Do?」は、オーストラリアのインディーポップ・バンド、The Go-Betweensが1988年に発表した6thアルバム『16 Lovers Lane』に収録された楽曲であり、バンドの中では珍しく強いエネルギーと疾走感を持ったロック・ナンバーである。
タイトルに込められた「何か僕にできることはあっただろうか？」という問いは、別れを迎えた後の自己反省や後悔の感情を端的に表している。歌詞では、突然去ってしまった誰か（女性）に対して、語り手が自問自答を繰り返しながら、喪失と混乱、そして無力感を吐露していく。
この曲が秀逸なのは、そのテーマの切実さとは裏腹に、リズムは軽快でアップテンポな点である。サウンドの明るさと歌詞の哀しみが不思議な対比を成しており、それがかえって“取り返しのつかない出来事”のリアルな空虚感を引き立てている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Was There Anything I Could Do?」は、グラント・マクレナンによって書かれた曲であり、彼の作風の中でも特に直線的でストレートな感情表現が印象的な楽曲である。
アルバム『16 Lovers Lane』自体が、彼とアマンダ・ブラウンとの恋愛をテーマにした楽曲が多く含まれているが、この曲もまた、「愛する人を理解しきれなかったこと」や「その痛みを後から知ること」について書かれていると考えられる。
歌詞の内容からは、語り手の目の前で何かが壊れていったというよりも、すでに手遅れになった状況を、後から知っていく過程が描かれており、それが繰り返される「Was there anything I could do?」というラインに込められた“悔やんでも届かない心の距離”となって響いてくる。
この曲はシングルとしてリリースされたが、イギリスのチャートではそれほど目立った成績を残さなかった。しかしアメリカではオルタナティブ・ロック専門ラジオなどで多くオンエアされ、のちにThe BuzzcocksやMaxïmo Parkなどに影響を与えた、疾走系インディーロックの先駆的存在とも見なされている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Was There Anything I Could Do?」の印象的なフレーズを抜粋し、和訳を添える。
She comes home and she’s happy / She comes home and she’s blue
→ 彼女は幸せそうに帰ってきたと思えば、次は沈んで帰ってくるShe comes home and she tells him / Listen baby, we’re through
→ そしてある日こう言ったんだ――「ごめん、もう終わりよ」I don’t know where she’s going / I don’t know where she’s been
→ 彼女がどこへ行こうとしていたのか、どこにいたのかもわからないWas there anything I could do?
→ 何か、僕にできることはあっただろうか？
引用元：Genius Lyrics – The Go-Betweens “Was There Anything I Could Do?”
同じ問いが何度も繰り返されることで、答えの見つからない問いの重さが浮き彫りになっていく。
そしてその問いは、誰かを失った経験のある者なら誰もが共感する感情でもある。
4. 歌詞の考察
この楽曲は、愛する人が壊れていく姿に気づけなかった語り手の“遅すぎた後悔”を、力強いビートのなかで突きつけるように歌っている。
その「強さ」に反して語られているのは、無力感と理解の不在であり、「何かしてあげられたかもしれないのに、何もしなかった」という痛みが、まるでリフレインのように押し寄せてくる。
「Was there anything I could do?」という問いは、表面的には相手を想う優しさのようにも見えるが、同時に「自分の良心を守るための問いかけ」にも感じられる。
つまり、語り手はどこかで「自分は悪くない」と思いたがっているようにも聞こえるのだ。そこに、この曲のエゴと純粋さが混ざり合ったリアルな人間性がある。
また、「彼女は喜び、沈み、突然去る」という一連の描写には、相手の内面世界を理解できない、または理解する努力を怠った結果としての“断絶”が感じられる。
それが、ポップで弾けるようなアレンジとぶつかることで、「感情の分裂性」そのものが楽曲として体現されている。
このように、「Was There Anything I Could Do?」は一見軽快なギターポップでありながら、人間関係の奥深さと、取り返しのつかない瞬間の痛みを、静かに、しかし確かに刻みつける作品となっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- A Forest by The Cure
追いかけても届かない誰かを描いた、迷宮的なポストパンクの傑作。 - This Charming Man by The Smiths
軽やかなギターの裏に、恋と社会的違和感の物語が広がるインディー・クラシック。 - Losing My Religion by R.E.M.
言葉にならない苦悩と揺れる愛情を、ミステリアスに描いたナンバー。 -
Cut Your Hair by Pavement
表面上はユーモラスでも、その奥にある“失望と冷笑”がじわじわ滲む90sインディーロック。 -
Out of Time by Blur
タイミングのずれと、理解されないまま流れていく感情をテーマにした静かな名曲。
6. “届かなかった問い”が鳴り響くロック・アンセム
「Was There Anything I Could Do?」は、The Go-Betweensのカタログのなかでも異色の楽曲である。
それは、彼らが得意とする内省的で詩的なポップとは一線を画し、むしろ剥き出しの疑問と焦燥を、ダイレクトなギターリフと反復によってストレートにぶつけているからだ。
その問いかけには明確な答えがない。
誰かが突然姿を消したあとに残るのは、「なぜ止められなかったのか」「なぜ気づけなかったのか」という自己への追及だけ。
この曲は、そんな後悔と向き合うすべての人の心の奥に、静かに、けれど鋭く突き刺さる。
軽快なリズムに乗せられた「Was there anything I could do?」というフレーズは、心のどこかにしまっていた“あのときの思い”を呼び起こし、
まるで過去の自分と再会させられるような感覚をもたらす。
それは、ポップソングでありながら、**記憶の奥を揺さぶる“問いの形をした詩”**なのだ。
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