アルバムレビュー：Wanted Dead or Alive by Warren Zevon

発売日: 1970年4月
ジャンル: ロック、フォークロック、ブルースロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
歌詞の深読みと文化的背景
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概要

『Wanted Dead or Alive』は、ウォーレン・ジヴォンが1970年に発表したデビューアルバムであり、
後の彼のキャリアとは大きく趣を異にする、荒削りでブルージーな作品である。

この時期、ジヴォンはまだ音楽業界の裏方仕事（セッションマンや作曲家）を主にしており、
本作もほぼ全ての楽器を自ら演奏するというDIYスタイルで制作された。

プロデューサーとしてクレジットされているのはジヴォン本人。
とはいえ制作環境は厳しく、資金不足や経験の浅さもあり、
商業的には成功せず、本人も後にこのアルバムを半ば黒歴史扱いすることになる。

それでも『Wanted Dead or Alive』には、
ジヴォン特有のシニカルな視点や、破滅的ロマンチシズムの萌芽が見られ、
彼の後の名作群への序章として、重要な意味を持つ作品となっている。

全曲レビュー

1. Wanted Dead or Alive

タイトル曲にしてアルバムの冒頭を飾るブルースロックナンバー。
反逆者の孤独と虚無感をハードボイルドに描き出す。

2. Hitchhikin’ Woman

放浪と失恋をテーマにしたフォークロック調の楽曲。
乾いたギターリフとジヴォンの渋い歌声が光る。

3. She’s Too Good for Me

報われない恋をテーマにしたストレートなラブソング。
シンプルだが、どこか影を感じさせる。

4. Iko Iko

ニューオーリンズの伝統曲のカバー。
素朴なアレンジで、ルーツ志向を感じさせる演奏となっている。

5. A Bullet for Ramona

カントリーフレイバー漂う物語ソング。
殺し屋と裏切りをテーマにしたダークな物語性は、後のジヴォン作品に通じるものがある。

6. Song of the Story Tellers

フォーキーで叙情的なミディアムナンバー。
若きジヴォンの作家性が顔を覗かせる。

7. The Lonely Night

夜の孤独と救いのなさを歌うバラード。
シンプルなメロディの中に、ほろ苦い哀愁が漂う。

8. Fiery Emblems

ほとんどインストゥルメンタルに近い実験的な楽曲。
ギターのフィードバックとサイケデリックなサウンドスケープが特徴。

9. Poor Poor Pitiful Me

ここで初期版が登場。
後にリンダ・ロンシュタットがカバーして有名になるが、
この原型では、よりラフで荒削りなロックチューンとして響く。

10. Travelin’ in the Lightnin’

短いカントリーフォークソング。
放浪者の心情を、軽やかなタッチで描いている。

総評

『Wanted Dead or Alive』は、
ウォーレン・ジヴォンのキャリアにおける**”未完の第一章”**である。

本人も後年、”まだ準備ができていなかった”と語るように、
サウンド面では粗削りな部分が目立ち、
完成度という点では後の傑作群（『Warren Zevon』『Excitable Boy』）には遠く及ばない。

しかし、
荒野をさまよう孤独な魂、救いようのないユーモア、
そしてアウトローとしての美学は、
すでにここで胎動している。

『Wanted Dead or Alive』は、
磨かれる前の原石としてのジヴォンを知るために、
非常に興味深い一枚なのである。

歌詞の深読みと文化的背景

1970年――
アメリカはベトナム戦争、カウンターカルチャーの退潮、
そして夢の崩壊を迎えようとしていた。

『Wanted Dead or Alive』に漂う孤独感と放浪者の視点は、
そうした時代の理想と現実の断絶を自然に映し出している。

「A Bullet for Ramona」や「The Lonely Night」では、
すでに”ヒーローなき世界”を生きるアウトローたちの哀しみが描かれ、
「Poor Poor Pitiful Me」の原型には、
皮肉と自己破壊への予感が潜んでいる。

『Wanted Dead or Alive』は、
まだ若く、だが世界の暗い側面を見つめ始めたウォーレン・ジヴォンの
“失われたアメリカ”への最初のレクイエムなのである。