
発売日: 2012年12月19日
ジャンル: インストゥルメンタル・ファンク、ミニマル・グルーヴ、DIYジャズ・ポップ、ユーモア・ファンク
概要
『Vollmilch』は、アメリカのインディー・ファンク・バンドVULFPECKによる2作目のEPであり、“脱力と精緻が同居するVULFPECKの音楽美学”が本格的に開花し始めた記念碑的作品である。
前作『Mit Peck』で提示された極限まで削ぎ落としたファンク構成を引き継ぎつつ、本作ではよりメロディアスで親しみやすいムードと、音楽的ジョークに富んだ遊び心が全面に出ている。
ドイツ語で“全乳”を意味する「Vollmilch」というタイトルは、健康的でまろやかなイメージと、どこか牧歌的な響きを含んでおり、彼らの音楽観=“シリアスすぎない本気”を象徴している。
録音も相変わらずローファイで、スタジオというより“部屋の中で鳴っている”ような空気感が魅力的。
このEPは全編インストゥルメンタルで構成されており、言葉に頼らず“音と間”だけで会話するグルーヴの妙を味わうことができる。
全曲レビュー(全6曲)
1. It Gets Funkier II
前作『Mit Peck』に収録された「It Gets Funkier」の続編。
前作よりもわずかに音数が増し、シンセベースが太くなっているが、相変わらず“音を詰めすぎない”余白の美学が貫かれている。
Joe Dartのベースは“踊る理論”とも言えるほどの精密さ。
2. Wait for the Moment (Instrumental)
のちにAntwaun Stanleyのボーカルを迎えて人気曲となる本作のインストゥルメンタル版。
ここではJack Strattonのフェンダー・ローズが主役を務め、“歌がなくても心が動く”メロディの力を静かに証明している。
3. Tobey Time
メンバーTobey LaRone(仮名)に捧げられた軽快なミッドテンポ・ナンバー。
ミニマルなドラムとチャカポコしたギターの絡みがクセになる。タイトルからして冗談のようで、演奏は真剣そのものというVULFPECKらしさ全開。
4. Outro
曲名は“アウトロ”だが、構成的には中盤の位置。
メロウでメディテーティブなトラックで、ローズのリフレインがまるで夕暮れ時の風景を描くように響く。
5. Mean Girls (Reprise)
前作『Mit Peck』収録曲の再演。
コード進行は同じながら、ベースのラインが変化しており、まるで同じ街を別の時間帯に歩いているような感覚を与える。
再解釈の妙味がある。
6. 3 on E
テンポ感の妙とグルーヴの“ずらし”が特徴のファンキーな締め曲。
スネアの位置とベースのフレーズの“食い違い”が生む、心地よい不安定感がクセになる。
まさに「VULFPECKらしさ」の原液。
総評
『Vollmilch』は、VULFPECKがただのファンクバンドではなく、“コンセプチュアルなグルーヴ・デザイナー”であることを示した作品であり、初期の彼らの完成形とも言えるEPである。
その魅力は、テクニックでもプロダクションでもない。
“音の選び方と、削り方、そして何より遊び方”に宿る美学が、15分という短い尺の中にぎっしり詰め込まれている。
このEPを聴くことは、耳で笑い、身体で頷き、そしてふと心が動く──そんな、音楽の原点的な喜びを思い出させてくれる体験なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
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VULFPECK / Fugue State
本作の延長線上にある3作目のEP。より洗練された構成力が光る。 -
Cory Wong / Power Station
グルーヴに知性を宿すギタリスト。VULFPECKの精神的兄弟。 -
Scary Pockets / Best of Scary Pockets Vol. 1
インスト&ファンク再解釈集団。音の抜き差しとユーモアが共鳴。 -
KNOWER / Life
エレクトロ・ファンクと奇抜な展開美学。VULF的遊び心と近しい世界観。 -
Snarky Puppy / Culcha Vulcha
インストでストーリーを語るビッグ・アンサンブル。VULFPECKとは異なるアプローチで共振。
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