Venus in Furs by The Velvet Underground(1967)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Venus in Furs」は、The Velvet Undergroundの革新的なデビュー・アルバム『The Velvet Underground & Nico』(1967年)に収録された、ロック史に残る挑発的かつ文学的な楽曲である。その内容は、官能、サディズム、服従、倒錯といったテーマを大胆に扱っており、20世紀ロックにおけるタブーの枠を大きく超えた作品として知られている。

タイトルの「Venus in Furs」は、19世紀オーストリアの作家レオポルド・フォン・ザッヘル=マゾッホによる同名の小説から引用されており、“毛皮をまとったヴィーナス(愛の女神)”は、支配する女性像の象徴として歌詞に登場する。語り手はそのヴィーナスに跪き、鞭打たれ、支配されることを求める倒錯的な快楽に魅了されていく。

本作は、単にエロティックな要素を消費するのではなく、人間の欲望の深層にある“支配と服従”の関係性を芸術として昇華した極めて前衛的な楽曲である。現実から遊離した幻想世界の中で展開される官能の物語は、同時に都市生活の孤独や逃避の感情ともリンクしており、聴く者に強烈な印象と不安を与える。

2. 歌詞のバックグラウンド

ルー・リードが作詞・作曲したこの楽曲は、当時としては驚異的なまでにオープンに**BDSM(ボンデージ、支配と服従)**の世界を描いた作品であり、アメリカ社会の保守的な価値観に真っ向から挑むものであった。

インスピレーション源となった小説『毛皮を着たヴィーナス』は、“マゾヒズム”という概念の語源となった文学作品で、ルー・リードはそれを現代的なロックの言語で再構築し、官能性と退廃の美学をサウンドと詩に融合させた。同時期、バンドの活動拠点であったニューヨークのアートシーンや、アンディ・ウォーホルが主宰するファクトリーの退廃的な空気もこの楽曲の雰囲気と深く関わっている。

ジョン・ケイルによるエレクトリック・ヴィオラのドローンは、東洋的でミニマルな響きを帯び、楽曲全体に妖しい緊張感と催眠的な空気をもたらしている。その不協和音のような音の波が、リードの冷ややかで無機質なボーカルと合わさることで、リスナーはまるで退廃的な夢の中をさまようような体験をすることになる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Venus in Furs」の代表的なフレーズとその和訳を紹介する。

Shiny, shiny, shiny boots of leather
 きらきら光る、革のブーツ

Whiplash girl-child in the dark
 暗闇の中の、鞭を振るう少女

Comes in bells, your servant, don’t forsake him
 鈴の音とともに、君のしもべが現れる——どうか見捨てないで

Strike, dear mistress, and cure his heart
 どうか、女王様——彼の心をその鞭で癒して

Severin, Severin, speak so slightly
 セヴェリンよ、そっと囁いて

Severin, down on your bended knee
 ひざまずけ、セヴェリン

Taste the whip, in love not given lightly
 愛が与えられぬまま、鞭の味を知るがいい

引用元:Genius Lyrics – The Velvet Underground “Venus in Furs”

4. 歌詞の考察

「Venus in Furs」の詩世界は、単なる性的倒錯の描写にとどまらず、欲望の本質や人間関係に潜む権力構造への鋭い洞察が込められている。支配する者とされる者、愛と痛み、快楽と苦悶が混在し、聴く者を道徳や倫理の外へ連れ出していく。

登場する“セヴェリン”という名は、元の小説の主人公から取られており、彼は毛皮の女神に支配されることに快楽を見出す。“愛が与えられぬまま、鞭の味を知る”という一節には、愛されることよりも痛みを通じて存在を確認したいという深層心理が示唆されている。

また、ヴィーナスの革のブーツ、鈴の音、闇の中の少女というイメージはすべて、“官能的幻想”であると同時に、女性が持つ権威性と神話性を象徴するものであり、これはルー・リードが描く“崇拝としての愛”の形でもある。

音楽的には、ケイルのヴィオラがもたらすミニマルなドローンが、反復するギターリフと絡み合い、リスナーを現実の時間から切り離す。まるで“儀式”のような構成が、リリックにある支配と服従の関係性と完璧に呼応しているのだ。

※歌詞引用元:Genius Lyrics – The Velvet Underground “Venus in Furs”

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • The End by The Doors
     死と無意識の領域を詩的に描いたサイケデリック・ロック。退廃的な美意識が共鳴する。

  • Warm Leatherette by The Normal
     機械と肉体、快楽と死を結びつけるエレクトロニック・ミニマル。支配の美学が共通。
  • Bela Lugosi’s Dead by Bauhaus
     ゴシックとポストパンクの原点。幻想的で神秘的な空気が「Venus in Furs」と並ぶ。

  • Lady Grinning Soul by David Bowie
     神秘的な女性像と崇拝の物語を、美しいピアノとともに紡いだボウイの耽美主義。

6. “倒錯と芸術”──美と快楽のあいだに

「Venus in Furs」は、1960年代のアメリカにおいてタブー視されていた欲望と性の深層を、芸術という枠の中で正面から扱った初めてのロック楽曲のひとつである。リードはここで、BDSMという主題を用いながらも、単なる性的逸脱ではなく、そこにある“人間の本質”を掘り下げようとした。

The Velvet Undergroundのこの姿勢は、音楽が“社会を映す鏡”だけでなく、“人間の内面を覗き込む顕微鏡”であることを提示した。そしてそれは後のデヴィッド・ボウイ、スージー・スー、ジョイ・ディヴィジョンナイン・インチ・ネイルズら多くのアーティストに影響を与え、“異端を抱きしめるロック”の系譜を築く礎となった。

「Venus in Furs」は、快楽と痛み、支配と服従、男と女、現実と幻想、そのあらゆる“境界線”を溶かしていく。そしてその曖昧さの中に、人間の心の最も暗く美しい部分が浮かび上がるのだ。

この楽曲を聴くことは、日常の外にある感覚を垣間見ることであり、それはまるで自分の中に眠る“もう一人の自分”を見つける体験とも言えるだろう。

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