Up in Her Room by The Seeds(1967)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Up in Her Room」は、The Seeds(ザ・シーズ)が1967年にリリースしたセカンド・アルバム『A Web of Sound』のラストに収録された楽曲であり、全編14分以上にも及ぶ、当時としては異例の長さを誇るサイケデリック・ジャムである。その構成は、反復されるコード進行、マントラのようなヴォーカル、ノイズ的に展開されるギターの即興演奏などからなり、意識の流れそのものを音楽として捉えた実験的作品といえる。

歌詞の内容は非常にミニマルで、ほとんどが「彼女の部屋で起こること」「彼女と過ごす時間」についての言及にとどまっている。しかし、その曖昧で象徴的な表現の奥には、性愛的な陶酔感、逃避的な空間、そして精神のトリップ=意識の変容といったテーマが読み取れる。
語り手は、彼女の部屋で経験する“何か”に飲み込まれながら、時間の感覚も自我の輪郭もあいまいになっていく。そこは現実から切り離された“もう一つの世界”であり、その部屋は“身体の内側”や“精神世界”を象徴しているとも解釈できる。

2. 歌詞のバックグラウンド

1967年という時代は、アメリカ西海岸でサイケデリック・ロックが開花しつつあった時期であり、The Seedsはその先駆的存在としてロサンゼルスのアンダーグラウンド・シーンで支持を集めていた。
アルバム『A Web of Sound』は、そのタイトルどおり音の“蜘蛛の巣”のように絡み合った感覚的な世界をテーマにしており、「Up in Her Room」はその集大成として最終トラックに配置されている。

この楽曲は、スタジオでの一発録りのようなジャム・セッション的スタイルで録音されており、既存の楽曲構造――イントロ、Aメロ、サビ、ブリッジといった構成を完全に破壊し、反復と断片で“音による意識の拡張”を狙った作品である。
その試みは、The Velvet Underground、13th Floor Elevators、さらには後のCanやSpacemen 3といったバンドたちへも受け継がれていくことになる。

なお、当時としては14分という長さはラジオ放送には不適格とされており、この曲がシングル化されることはなかったが、逆にカルト的な評価を高める要因となった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Up in her room
彼女の部屋で

She’s got the magic
彼女は魔法を持ってるんだ

このフレーズの繰り返しが楽曲の大部分を占めており、“部屋”というプライベートな空間における非現実的な体験が語られる。ここでの“magic”は比喩的であり、性的体験、薬物、または精神的な変容を指すと考えられる。

I’m gonna stay all night
一晩中、そこにいるつもりさ

この一節では、語り手がその空間に自ら没入していく様子が描かれる。“一晩中”とは、時間の感覚を失った状態=トリップ状態の暗喩とも取れる。

Don’t wanna go outside
外には出たくないんだ

ここでは、現実世界への拒絶が明確に現れている。語り手は彼女の部屋=快楽/幻覚/精神的自由の場所に安住し、外界の秩序や社会性から逃れようとしている。

※引用元:Genius – Up in Her Room

4. 歌詞の考察

「Up in Her Room」は、リリックの面では非常に単純な繰り返しに終始しているが、そのミニマリズムの中にこそ、**サイケデリック時代特有の“精神の広がり”と“現実からの離脱”**が刻み込まれている。
この“彼女の部屋”は、ただの居住空間ではなく、意識が変容する装置としての象徴空間であり、語り手はそこにとらわれながらも、むしろその囚われに酔っている。

繰り返されるフレーズは、まるでマントラのように聴く者の意識を攪乱し、14分を超える反復的な音像は、自我の境界を溶かす“音によるトランス体験”を生み出している。ここでは、歌詞はあくまで触媒に過ぎず、音こそが語るべき“言葉”になっている。

また、彼女の部屋に“魔法がある”という表現は、女性性=神秘性、官能性、霊性の融合として捉えることもできる。スカイ・サクソンの語りは、狂気と恍惚の中間に位置しており、彼女への欲望というより、彼女を通して“変性意識”の領域へ導かれる感覚が強く表れている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Sister Ray by The Velvet Underground
    反復するコードと狂気の即興演奏によってトランス状態へ導く20分超の実験作。

  • Rollercoaster by 13th Floor Elevators
    ドラッグ体験と精神の浮遊をギターとリズムで描くサイケの名曲。
  • Yoo Doo Right by Can
    構造を拒むリズムと反復によって意識の変容を試みるクラウトロックの象徴。

  • Suicide by Spacemen 3
    恍惚と破滅の境界をギターの轟音とミニマルな詞で描いたサイケデリアの再来。

  • Revolution 9 by The Beatles
    言語・音楽・構成を解体することで、精神風景そのものを提示した前衛的作品。

6. サイケデリックの終着点――14分間の音の迷宮

「Up in Her Room」は、The Seedsが当時のロックバンドの中でも最もラディカルな意識拡張の実験を試みていたことを証明する楽曲である。
その14分間は決して冗長ではなく、むしろ時間と構造の概念を超越するための意図的な長さであり、リスナーを“彼女の部屋”=意識の深部へと引きずり込む装置となっている。

ここで語られる“部屋”とは、愛や性を超えて、**逃避・依存・快楽・神秘が重なり合った“内なる聖域”**である。そして、その部屋の扉は、開いたが最後、二度と現実には戻れないかもしれない。

これはただのラブソングではない。14分間の精神の迷宮である。
「Up in Her Room」は、サイケデリック・ロックが一瞬だけ見せた、音と意識の完全なる融合の記録なのだ。

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