発売日: 2004年4月20日
ジャンル: ポップ・ロック、アコースティック・ポップ、アダルト・コンテンポラリー
概要
『Underneath』は、Hansonが2004年に自主レーベル3CG Recordsを設立してリリースした通算3作目のスタジオ・アルバムであり、メジャー・レーベルとの決別とアーティストとしての自立を示した決定的な一枚である。
前作『This Time Around』で“ティーン・アイドル”のイメージを脱却し、成熟したロック・サウンドに踏み出した彼らは、今作でさらに“音楽家”としての自我を強く打ち出すことになる。
ワーナー・ブラザースとの契約解除を経て、全編を自らのレーベルからリリースするにあたり、彼らはメジャー的な商業性よりも、個人的な表現とメロディの純粋さを重視したプロダクションを選択。
その結果、アコースティックな質感とストリングスを中心とした繊細なアレンジが前面に出た、内省的かつ情緒豊かなアルバムに仕上がった。
音楽産業の構造やアーティストの創造性について鋭く問いかけるドキュメンタリー『Strong Enough to Break』と並行して制作された本作は、Hansonにとって“創ることと闘うこと”を意味したアルバムでもある。
全曲レビュー
Strong Enough to Break
アルバムの幕開けを告げる静かなアコースティック・ナンバー。
音楽業界の圧力や葛藤を象徴する歌詞で、タイトルは「壊れるほど強くなれ」という逆説的な決意を示す。
繊細なコード進行とともに、テイラーの儚げな声が心に染みる。
Dancing in the Wind
アコースティック・ギターが軽快に鳴り響く爽やかなロック・ポップ。
前曲の重さから一転して、前向きな風を感じさせる。
自由をテーマにした歌詞が、レーベル独立後の新たなフェーズと重なる。
Penny & Me
本作のリード・シングルで、物語性のあるリリックと哀愁漂うメロディが美しい。
“ペニー”という架空の人物との旅が描かれており、逃避と再出発を象徴する。
柔らかなストリングスとコーラスが印象的で、彼らの叙情的な才能が最もよく現れた一曲。
Underneath
タイトル・トラックは、関係性の奥に潜む感情の複雑さをテーマにしたバラード。
「君の本当の姿を知りたい」という切実な願いが、抑制されたピアノとともに静かに語られる。
Misery
暗いコード感とブルージーなメロディが、絶望と愛の狭間を描く。
ハンソンが得意とする“痛みと希望の同居”を最も端的に体現した楽曲である。
Lost Without Each Other
本作では数少ないアップテンポのバンド・ナンバーで、コーラスワークとリズム隊の一体感が心地よい。
“君なしでは生きられない”という切ない愛の表現がストレートに響く。
When You’re Gone
別れの余韻を描いたアコースティック・バラード。
ギター一本で進行するシンプルな構成だからこそ、歌詞の一言一言が胸に残る。
Broken Angel
ザックがメイン・ボーカルを務める、儚さに満ちたピアノ・バラード。
“壊れた天使”というメタファーを通じて、傷ついた者への共感と寄り添いを描く。
ヴォーカルのかすれや間が絶妙で、バンドの表現力の高さを示す。
Believe
内面の信仰や希望をテーマにした楽曲で、スピリチュアルな響きを持つ。
サビでは壮大なハーモニーが広がり、まるで祈りのような構成となっている。
Crazy Beautiful
恋愛のもどかしさと美しさを描いた、ミディアム・テンポの甘く切ないナンバー。
メロディと歌詞の調和が美しく、アルバムの彩りとして重要な位置を占めている。
総評
『Underneath』は、Hansonが自らの足で立ち、音楽の核心に向き合おうとした“静かなる革命”の記録である。
大手レーベルの後ろ盾を捨て、自主レーベルでの活動に舵を切った彼らは、商業的な栄光を求めるのではなく、自分たちの“心の声”を最優先に制作を行った。
その結果として生まれた本作には、派手なプロダクションやキャッチーなフックは少ないが、メロディの純度とリリックの誠実さが際立っており、リスナーに静かに深く染み込んでくるような力がある。
また、音楽業界の仕組みに疑問を呈しながらも、決して怒りに傾かず、あくまで“音楽を通じた対話”でそれを超えようとした姿勢が、今聴くとより感動的に響く。
“作らされたもの”ではなく“生まれたもの”としての音楽――それが『Underneath』の本質であり、Hansonというアーティストの中核なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Ben Folds『Rockin’ the Suburbs』
ピアノ・ポップの軽快さと内省のバランスが、Hansonの本作と通じる誠実さを持つ。 - Jason Mraz『Waiting for My Rocket to Come』
メロディの美しさと詞の深さを兼ね備えた、アコースティック寄りのポップ・ロック。 - Jack Johnson『On and On』
シンプルで穏やかなアレンジの中に、豊かなメッセージを込めるスタイルが共通する。 - John Mayer『Heavier Things』
エレクトリックとアコースティックを自在に行き来しながら、誠実なラブソングを描く作品。 -
The Fray『How to Save a Life』
ピアノ主体の感傷的ポップ・ロックで、内面的なドラマを静かに描く方向性が類似。
6. 制作の裏側（Behind the Scenes）
『Underneath』の制作過程は、Hansonが音楽業界との格闘の末に“自主”という選択をした物語そのものだった。
契約していたメジャー・レーベルがアルバムの方向性に難色を示し、リリースが何度も延期される中、彼らはついに3CG Recordsを立ち上げ、全権を自らに戻す道を選んだ。
この過程を記録したドキュメンタリー『Strong Enough to Break』では、スタジオでのレコーディングの模様や、A&Rとの衝突、ファンミーティングまで、すべての裏側が明かされており、アーティストがどのように音楽と向き合い続けるのかを生々しく描いている。
結果として生まれた『Underneath』は、アーティストの独立と創造性の自由を象徴するアルバムであり、Hansonにとって音楽人生を賭けた「第一章の終わり」であり、次なる始まりだった。
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