発売日: 2019年5月3日
ジャンル: インディーフォーク、ドリームポップ、サイケデリックフォーク
2019年にリリースされたBig Thiefの3作目「U.F.O.F.」は、フォークの静謐さとドリームポップの幻想性が見事に融合した作品であり、リスナーを異世界へと誘うような音楽体験を提供している。アルバムタイトル「U.F.O.F.」は“Unidentified Flying Object Friend”の略であり、エイリアンや未知の存在に対する興味が象徴的に描かれている。ボーカルのエイドリアン・レンカーは、浮遊感のあるメロディと詩的なリリックで、愛や孤独、存在の不確かさといったテーマを静かに探求している。
このアルバムは、フォークロックやドリームポップをベースにしながらも、従来の枠にとどまらない実験的で幽玄な音が散りばめられ、聴く者をまるで夢の中にいるかのような感覚へと導く。エイドリアンの囁くようなボーカルは楽曲ごとに異なる表情を見せ、バンドメンバーの演奏も一層緻密で幻想的。Big Thiefがこれまでのフォークロックからさらに一歩進み、より深く内省的で心に残る音楽を完成させた。
トラックごとの解説
1. Contact
アルバムの幕開けを飾る「Contact」は、静かなギターのイントロから始まり、エイドリアンの穏やかなボーカルが心に響く。終盤ではサウンドが急激に激しさを増し、不安や恐怖を暗示するかのような展開を見せる。
2. U.F.O.F.
タイトル曲「U.F.O.F.」は、浮遊感のあるギターと繊細なメロディが特徴の楽曲で、未知の存在への興味がテーマとなっている。エイドリアンのささやくようなボーカルが、曲に幽玄な雰囲気を与えている。
3. Cattails
「Cattails」は、軽快なリズムと心地よいギターが特徴のトラックで、自然への賛歌が歌われている。開放感のあるメロディが、野原や川辺を歩くような自由なイメージを喚起する一曲。
4. From
「From」は、シンプルなギターとリズミカルなベースが織り成すミニマルな楽曲で、故郷や過去への想いが表現されている。静かで落ち着いた雰囲気が心地よく、感傷的な余韻を残す。
5. Open Desert
「Open Desert」は、広がりのあるサウンドとエイドリアンの優しいボーカルが美しく調和する一曲。砂漠の静寂と孤独がテーマで、音の隙間に漂う静けさが印象的。
6. Orange
アルバムの中でも特に繊細な「Orange」は、短くも情緒的な一曲。恋愛のはかなさが、控えめなギターとエイドリアンの切ない歌声で表現されている。
7. Century
「Century」は、躍動感のあるリズムとダイナミックなギターが特徴的なトラック。愛や時の流れについて歌われ、エイドリアンのボーカルが感情豊かに響く一曲で、アルバム全体の中でも特に印象的。
8. Strange
「Strange」は、奇妙さと美しさが交錯する楽曲で、人間の複雑さや世界の神秘をテーマにしている。エイドリアンの淡々とした歌声が、リスナーに不思議な感覚を抱かせる。
9. Betsy
「Betsy」は、しっとりとしたメロディと優しいギターが特徴のトラックで、失われた愛や過去への追憶が表現されている。ノスタルジックな雰囲気が心地よく、ゆったりとしたリズムが印象的。
10. Terminal Paradise
「Terminal Paradise」は、生命と死について深く考察する楽曲。エイドリアンの静かな歌声が、哀しみと美しさを同時に伝え、リスナーを深い感情の世界へと引き込む。
11. Jenni
「Jenni」は、幻想的で広がりのあるサウンドスケープが特徴的で、終末的なテーマが暗示されている。圧倒的な静寂と感情が同時に存在する一曲。
12. Magic Dealer
アルバムを締めくくる「Magic Dealer」は、ミニマルで夢のようなサウンドが広がる楽曲。エイドリアンのささやくような歌声が印象的で、まるで深い夢の中で終わりを迎えるような静かな余韻が残る。
アルバム総評
「U.F.O.F.」は、Big Thiefがフォークやオルタナティブの枠を超え、より深く内面的で幻想的な世界を描き出したアルバムである。エイドリアン・レンカーの詩的でミステリアスなリリック、そして幽玄なサウンドスケープが、リスナーを異次元のような音楽体験へと導く。このアルバムでは、自然や宇宙、生命と死といったテーマが描かれ、どこか人間離れした静寂と美しさが感じられる。Big Thiefは「U.F.O.F.」で自らの音楽をさらに進化させ、フォークミュージックの新たな可能性を切り開いた。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Have You in My Wilderness by Julia Holter
ドリーミーで幻想的なサウンドと、詩的なリリックが特徴の一枚。アルバム全体の神秘的な雰囲気が「U.F.O.F.」と共通している。
Strange Mercy by St. Vincent
繊細かつ独特なサウンドで、個人的なテーマと実験的なアレンジが光るアルバム。ミステリアスな雰囲気がBig Thiefのファンにも刺さる。
7 by Beach House
ドリームポップの代表作で、重厚で幽玄なサウンドが印象的。Big Thiefの幻想的な一面を好むリスナーにとって、共鳴する部分が多い。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
シンプルで内省的なフォークアルバム。自然と生命についての静かな探求が「U.F.O.F.」と重なり、心に残る美しさがある。
In the Aeroplane Over the Sea by Neutral Milk Hotel
フォークとサイケデリックなサウンドが融合した名盤で、ビッグ・テーマを扱う点で「U.F.O.F.」と共通する。深い感情と幻想的な歌詞が魅力。
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