Too Good at Goodbyes by Sam Smith(2017)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Too Good at Goodbyes」は、イギリスのシンガーソングライター Sam Smithサム・スミス が2017年にリリースしたシングルで、2枚目のスタジオ・アルバム『The Thrill of It All』に収録されています。この楽曲では、恋愛の中で繰り返される別れに対して、傷つかないように感情を閉ざし始めた自分自身の姿が描かれています。

タイトルの「Too Good at Goodbyes(さよならが上手になりすぎた)」は、繰り返される失恋や裏切りの中で、防御本能が働き、「もう深く愛することができなくなった」状態を表しており、愛を避けるようになってしまった心の痛みと麻痺を、サム・スミスらしい静かな語り口で表現しています。

2. 歌詞のバックグラウンド

この曲は、Sam SmithとJimmy Napes、Stargate、Jason “Poo Bear” Boyd という複数のソングライターとプロデューサーのチームによって制作されました。2014年のデビュー作『In the Lonely Hour』で“報われない愛”をテーマにしていたサム・スミスが、さらに個人的で成熟した感情を扱ったこの楽曲では、「何度も傷ついた結果としての心の防衛」が中心に据えられています。

楽曲はリリースと同時に世界的ヒットとなり、イギリスのシングルチャートで1位、アメリカのBillboard Hot 100でもトップ5入りを果たしました。サウンド面では、サム・スミスの持ち味であるピアノを基調としたミニマルなアレンジと、聖歌のようなゴスペル調コーラスが、感情の起伏を丁寧に支えています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Too Good at Goodbyes」の印象的な一節と和訳を紹介します:

“You must think that I’m stupid
You must think that I’m a fool”

「君は僕がバカだと思ってるんだろう
僕が愚かだと思ってるんだろう」

“But every time you hurt me, the less that I cry
And every time you leave me, the quicker these tears dry”

「でも君が僕を傷つけるたびに、涙は減っていく
君が去っていくたびに、涙が乾くのが早くなる」

“I’m way too good at goodbyes”
「もう、さよならには慣れすぎてしまったんだ」

“No, I’m never gonna let you close to me
Even though you mean the most to me”

「もう二度と君を近づけたりしない
たとえ君がどんなに大切でも」

引用元:Genius Lyrics

これらの歌詞は、人を愛したい気持ちと、それに伴う恐怖やトラウマの葛藤を静かに、しかし確実に描き出しています。

4. 歌詞の考察

「Too Good at Goodbyes」の歌詞が語るのは、繰り返された失恋によって心が硬くなってしまった人間の、極めてリアルな防衛本能です。過去に誰かに深く傷つけられた経験がある人は、再び誰かを愛することを恐れるようになります。愛してしまえば、また壊れるかもしれないから。

そのため、主人公は「これ以上は近づけない」と自己防衛の壁を築きます。しかしその裏には、本当はまだ愛したいし、愛されたいという気持ちが残っている。この矛盾が、歌詞全体を通して静かに、しかし痛切に流れ続けています。

注目すべきは、“You must think that I’m heartless / I’m just protecting my innocence”というライン。ここには、感情を持たない冷たい人間ではなく、「心の純粋さを守るために、あえて距離を取っている」という主人公の繊細な事情がにじみ出ています。この一節があることで、冷たさではなく優しさの裏返しとしての拒絶が描かれており、リスナーはより深く共感を抱くのです。

また、サビで繰り返される“I’m too good at goodbyes”という言葉には、ある種の自嘲や悲しみが込められています。人は本来、「さよならが上手になる」ことを望んではいません。しかし、愛されることに慣れない人間が、自分を守る唯一の方法として、別れに慣れるしかなかった――それがこの曲の根底にある絶望と誠実さです。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Let It Go by James Bay
    関係を終わらせる決断と、それに伴う痛みを静かに描いたバラード。距離を置くという選択が共鳴する。
  • All I Want by Kodaline
    叶わなかった恋を受け入れながらも、忘れられない心情を綴る一曲。喪失感のリアルさがリンクする。
  • Jealous by Labrinth
    愛する人を失った痛みを率直に歌ったバラード。声の揺れまで感情が込められている。
  • Someone You Loved by Lewis Capaldi
    突然の別れと向き合いながら、孤独に打ちのめされる主人公の心情を描いた感動作。
  • Let Me Down Slowly by Alec Benjamin
    別れを受け入れながらも、傷つかないようにと願う心の揺れが「Too Good at Goodbyes」と重なる。

6. 特筆すべき事項:サム・スミスの“距離をとることで守る愛”

「Too Good at Goodbyes」は、サム・スミスが自身の傷をさらけ出しながらも、それを悲しみではなく“優しい防衛”として描いたバラードです。過去の経験が彼に教えたのは、愛されることの喜びではなく、愛することの危険でした。そして、その恐れから人を遠ざけるようになった主人公は、ある意味で「成熟した悲しみ」ともいえる新たな段階に立っているのです。

また、この楽曲はノンバイナリーであることを公表したサム・スミスの**“自己の在り方”や“関係性のあり方”を問い直す視点**とも重なります。彼が歌う愛の形は、男女の恋愛の枠組みを超えて、もっと普遍的で、誰にでも訪れうる孤独や防衛本能、そしてそれでも人を愛したいという欲求を含んでいます。


**「Too Good at Goodbyes」**は、繊細で深い感情を、サム・スミスらしい静謐な表現で描いた傑作バラードです。誰かに傷つけられた経験を持つすべての人へ――それでも、自分を守りながら、少しずつまた愛に向き合っていけるように。この曲は、そんな“壊れた心のリハビリ”に寄り添ってくれる一曲なのです。傷ついた人ほど、静かにこの歌の意味がわかる。それが、この楽曲の真の力と言えるでしょう。

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