発売日: 2005年10月18日(自主リリース)
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、アコースティック・ポップ、インディー・パワーポップ
概要
『Too Soon Monsoon』は、Wheatus(ウィータス)が2005年に自主レーベル Montauk Mantis からリリースした3作目のスタジオ・アルバムであり、
メジャーの束縛から完全に離れ、“自分たちの音楽を、自分たちの手で自由に作る”という姿勢を徹底したセルフ・プロデュース作品である。
前作『Hand Over Your Loved Ones』(後に『Suck Fony』として再発)が業界との摩擦によって広く流通しなかったことへの反動として、
今作では一切の外部干渉を排し、DIY精神とブレンダン・ブラウンの物語性のあるソングライティングが全開となっている。
内容的には、アコースティック寄りのパワーポップに回帰しつつも、
一曲一曲が短編映画のような“ミニドラマ的ストーリー性”を帯びた構成となっており、
『Teenage Dirtbag』のような直球ヒットこそないものの、じわじわと効いてくる味わい深い一枚となっている。
全曲レビュー
1. Something Good
明るく爽やかなメロディで幕を開けるオープニング・トラック。
“何か良いことが起きそうだ”という予感をテーマにした、希望と不安が共存するエヴァーグリーンなナンバー。
コーラスの温かみが印象的で、アルバム全体の雰囲気を決定づけている。
2. The London Sun
前作にも登場した楽曲の再録。
今回はより内省的で、“曇ったロンドンに差す微かな光”のようなメロディと詞が融合。
アコースティックギターの粒立ちが美しく、ブレンダンの声の表情が映える。
3. BMX Bandits
90年代映画のようなタイトルを持つ、“青春と自転車と友情”をテーマにした疾走感のある1曲。
明確に物語性があり、サビでは「We were BMX bandits!」と叫ぶことで、過ぎ去った夏のノスタルジーが爆発する。
ファン人気も高い楽曲。
4. Lemonade
再びの再録ながら、今回はよりメロウでエモーショナルな仕上がりに。
“レモネード”という言葉が、甘さと苦さの象徴として響く、Wheatus屈指の比喩的ポップソング。
サビの裏声が切ない。
5. Desperate Songs
失恋と作曲家としてのジレンマをかけ合わせた**“歌を書くことしかできない人間の苦悩”**を描く。
テンポは落ち着いているが、リリックが痛切で、語り手のナード的自虐とロマンが同居している。
6. Hometown
静かなイントロから始まり、徐々に広がる構成が**“帰郷”の感情とぴったり重なるバラード。
昔の友達、親の老い、自分の変化といったテーマを、優しいトーンで語るWheatus版「Homecoming Song」**。
7. Only You
穏やかなラブソング。
繊細なメロディと控えめなコーラスワークが、決して大げさに語らない“普通の愛”の美しさを引き立てている。
ギターとピアノのバランスが素晴らしい。
8. Who Would Have Thought?
“こんな未来、誰が想像できただろう?”というセンチメンタルな問いから始まるミドルテンポのナンバー。
後悔とも回想ともつかない、時間の流れを受け入れるような歌詞が静かに沁みる。
9. The Deck
アルバム終盤のアクセントとなるアップテンポ曲。
カードゲームやトランプのメタファーを用いて、人生の不確実性や“勝負に出る瞬間”を描いたユニークな楽曲。
10. Break It Don’t Buy It
言葉遊びの効いたタイトルとともに、“壊すだけで責任を取らない奴”を風刺した皮肉なポップロック。
音は軽快だが、怒りと諦観の混ざる詞が深い。
11. No Happy Ending
アルバムを締めくくるにふさわしい、“物語はいつもハッピーエンドとは限らない”という現実を描いた切ない一曲。
それでも曲調は明るく、“それでも明日へ”という前向きな諦めが滲んでいる。
ブレンダンの語りかけるような歌い方が胸を打つ。
総評
『Too Soon Monsoon』は、Wheatusがメジャーの圧力から解き放たれたことで、
よりパーソナルに、より叙情的に、そして音楽そのものと丁寧に向き合った作品である。
商業的な“ヒット”やチャートを意識せず、歌いたいことを、伝えたい方法でそのまま音にしたという感覚が強く、
その分、聴く者にとっては**「自分だけのWheatus」が見つかるような、親密で温かな一枚**となっている。
派手さや話題性には欠けるが、ナードな感受性、物語る力、コーラスの美しさ、声の繊細さといったWheatusの本質はこのアルバムにこそ詰まっている。
おすすめアルバム
- Death Cab for Cutie『Plans』
控えめな美しさと感情の細やかさを共有。 - Ben Lee『Awake Is the New Sleep』
DIY感と内省的なリリックが近似。 - Say Hi『Oohs & Aahs』
オルタナ・ナード・ポップの繊細な語り部として共通。 - Nada Surf『Let Go』
大人のナードロックの理想形ともいえる一枚。 -
Harvey Danger『Little by Little…』
知性と自虐とメロディが融合したポップ作品として類似性あり。
ファンや評論家の反応
『Too Soon Monsoon』は大手メディアでの取り上げは少なかったものの、
長年のファンからは「最もWheatusらしいアルバム」「静かな名作」として高く評価されている。
特に「BMX Bandits」「No Happy Ending」などはライブでも演奏され続け、
彼らのソングライティングの成熟と、変わらぬナード感覚の融合がリスナーの信頼を深めた作品として再評価が進んでいる。
『Too Soon Monsoon』は、青春を通りすぎたすべての“元・Teenage Dirtbag”たちに贈る、
静かで優しい人生のサウンドトラックである。
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