発売日: 2015年10月9日
ジャンル: ファンク、ソウル、ミニマル・グルーヴ、DIYポップ、ローファイ・ジャズ・ファンク
概要
『Thrill of the Arts』は、VULFPECKが2015年にリリースした初のフルアルバムであり、
これまでのインストゥルメンタル中心のEP路線から、ボーカル曲を中心に据えた“歌えるVULFPECK”の到来を高らかに告げる決定的作品である。
このアルバムで顕著なのは、Antwaun Stanley、Joey Dosik、Christine Hucalら多彩なゲストボーカリストを起用しながらも、
“VULFPECKらしさ”が失われるどころか、むしろ色濃く拡張されている点にある。
録音は引き続きローファイで、余白のあるアレンジ、美しいコード感、そして“聴きやすさとマニアックさの絶妙なバランス”がこのアルバムの大きな魅力となっている。
全曲レビュー
1. Welcome to Vulf Records
架空のレコード会社のジングルのようなショートトラック。
Jack Strattonのナード感が炸裂する、VULFらしい“笑って始まるファンクアルバム”の開幕宣言。
2. Back Pocket
Antwaun Stanleyをフィーチャーした本作最大のキラーチューン。
甘酸っぱくてちょっとダサい、“ミドルスクールのラブソング”風のポップ・ファンク。
そのくせメロディとリズムは抜群に洗練されており、音楽的“中二病の完成形”とも言える一曲。
3. Funky Duck
ゲストにJoey Dosikを迎えた、疾走感あふれるファンク・アンセム。
トーキングモジュレーターを使ったヴォーカルがユーモラスで、P-FunkのDNAを現代に落とし込んだような仕上がり。
4. My First Car
Joe Dartのベースが主役のミニマル・グルーヴ。
リフを反復しながら、わずかな展開の中で空間を満たしていく快感がある。
まさに“低音で語る音楽”の実践例。
5. Rango II
Christine Hucalによるソフト&スウィートな歌声が印象的なミドルテンポ曲。
この曲でVULFPECKは“レトロなAMラジオ的ポップス”の領域にも手を伸ばしている。
6. Game Winner
Joey Dosikの切ないボーカルが胸に迫る、ミニマル・ソウルの名品。
バスケを題材にしながら、実は人生の勝ち負けを歌うような深い感情性と日常性が共存した一曲。
7. Walkies
インストゥルメンタルに戻るユーモア曲。
散歩(walkies)というテーマを、跳ねるドラムとベースで軽快に描いたミニチュア・グルーヴ。
8. Christmas in L.A. (feat. David T. Walker)
スムースでメロウなファンク。ギターはレジェンド、David T. Walkerが参加。
VULFPECKの“音の贈り物”的な暖かさが詰まった冬の佳曲。
9. Smile Meditation
非常に短いリラックス・チューン。
「音楽が深呼吸になる」というVULF流アンビエント・ミニマル。
10. Guided Smile Meditation
前曲の延長で、音楽というより笑顔を促す“音声セラピー的エンディング”。
ふざけながら真面目、というVULFPECKの姿勢が最後まで崩れない。
総評
『Thrill of the Arts』は、VULFPECKが“ユーモアと美意識の両立”に成功した初のフルレンジ作品であり、
彼らのDIY的アプローチが、リスナーの心をつかみ、かつシーンに衝撃を与えたマイルストーン的アルバムである。
引き算のファンク、手作り感のある音像、ジャンル横断的な遊び心──
これらの要素がバランスよく調和し、“軽やかでありながら深い”、VULFPECKらしい音楽の魅力が最大限に発揮された名盤だ。
おすすめアルバム(5枚)
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VULFPECK / Mr. Finish Line
ゲスト豪華な“歌モノ中心”の次なる傑作。『Thrill〜』の流れを汲む発展形。 -
Joey Dosik / Inside Voice
ソウルフルな歌とピアノによる極上のミニマル・R&B。VULFと重なる部分が多い。 -
Scary Pockets / Funk Tape Vol. 1
VULF的アプローチのカバー集団。音の抜き差しとユーモアが共鳴。 -
Cory Wong / The Striped Album
VULFファミリーのギタリスト。グルーヴを突き詰めた構成美が魅力。 -
The Dip / The Dip Delivers
60s~70sソウルを現代的に解釈。Antwaun Stanleyのボーカル感に近い質感。
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