This Is the New Shit by Marilyn Manson(2003)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

マリリン・マンソンの「This Is the New Shit」は、2003年にリリースされた6枚目のスタジオ・アルバム『The Golden Age of Grotesque』に収録されたシングル曲であり、彼の芸術的・社会的プロボケーションの極地とも言える作品である。この楽曲は、タイトルが示す通り、“新しいもの”――特にポップカルチャーやメディア、音楽業界の表層的変化――に対する過激で皮肉なメッセージに満ちている。

歌詞では、「誰もが新しさを求めているが、その実体は空虚だ」といった現代社会への不信が繰り返し表現される。リフレインされる「This is the new shit / Stand up and admit it(これが新しいクソだ/立ち上がってそれを認めろ)」というフレーズは、“中身のない流行”に対してあえて乗ってみせるという“逆説的従属”を通じて、消費文化への痛烈な批評を体現している。

同時に、この曲には強烈なアイロニーと遊び心も含まれており、マンソン特有の“エンターテイナーとしての反逆性”が濃厚に表れている。ポップを取り込みながら破壊するこの手法は、アルバム全体のテーマである「退廃と装飾の時代(The Golden Age of Grotesque)」を象徴するものとなっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

『The Golden Age of Grotesque』は、マンソンが当時交際していたディータ・フォン・ティースの影響のもと、1930年代のワイマール共和国時代の退廃美やキャバレー文化からインスピレーションを受けて制作されたアルバムであり、その中でも「This Is the New Shit」は最も攻撃的かつアイコン的な楽曲である。

この曲は、マンソン自身が「芸術と商業の境界線が崩壊し、すべてが商品化されていく現代社会への反撃」と語っており、実際に当時の音楽業界で顕著だった“過激さの消費”や“ショックの形式化”といった現象に対するカウンターとして機能していた。

また、この楽曲のMV(ミュージック・ビデオ)やライブパフォーマンスでは、ナチス風の制服や退廃的な舞台装置が使われており、権威・装飾・暴力というテーマを視覚的にも強調。これはもちろんファシズムの賛美ではなく、ファシズム的な美学をパロディ化し、現代の“文化的ファシズム”――つまり流行や価値観の一元化に対する風刺として用いられている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、本楽曲の象徴的なフレーズとその日本語訳を紹介する(出典:Genius Lyrics)。

“Everything has been said before / There’s nothing left to say anymore”
「すでにすべてが語られた / もう語るべきことなんて残ってない」

“It’s all the same, you can ask for it by name”
「すべて同じだよ、名前で呼びさえすればそれが手に入る」

“This is the new shit / Stand up and admit it”
「これが新しいクソだ / 立ち上がって認めろよ」

“Do we get it? No / Do we want it? Yeah”
「理解してるか? いや / 欲しいか? ああ」

“We want to be the new shit / We want to be the new black”
「俺たちは“新しいクソ”になりたい / “新しい黒”になりたい」

マンソンのリリックは、あえて意味を空虚にして繰り返すことで、“意味のない熱狂”の模倣に成功している。これが本作の最大の皮肉であり、最も批評的な部分である。

4. 歌詞の考察

「This Is the New Shit」の根幹にあるのは、“すべてが消費されていく時代において、どこまでが本物でどこからが演出なのか?”という根源的な問いである。マンソンは、現代のメディア環境、音楽業界、そしてファン文化そのものが、ショックや反抗すらも“新しさ”としてパッケージ化して売買されている現実を、徹底して露悪的に描き出している。

“新しさ”を求める群衆の姿を、彼はナチス的なマスの動員になぞらえ、個性や批評性すらもブランド化されていく社会の中で、「お前らが“新しい”と叫んでるそれ、全部クソだぜ」と叫ぶ。そしてその叫びすらもまた“商品”として消費されるというメタ構造こそが、この曲の最大の皮肉であり、芸術的成功でもある。

また、マンソンはここで自らを“新しさの体現者”ではなく、“新しさの破壊者”として描いている。つまり、「新しいとは何か」を問うのではなく、「なぜ私たちは常に新しさを求めるのか」という消費者心理そのものを暴いているのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • My Generation” by Limp Bizkit
    若者の怒りと反抗を爆発させるミクスチャー・ロックの代表曲。マンソンの破壊性と共通。

  • “Beautiful People” by Marilyn Manson
    消費社会への批判というテーマで直結。インダストリアル・アンセムとしての双璧。

  • Antichrist Superstar” by Marilyn Manson
    メシアの構造を模倣しつつ、その崩壊を描くコンセプト的代表曲。

  • “Ich Will” by Rammstein
    集団性と個の消失を描く、政治的かつ攻撃的なインダストリアル・ロック。

  • “Fight Song” by Marilyn Manson
    「This Is the New Shit」と並ぶ、アイデンティティと抵抗をテーマにしたマンソン流マニフェスト。

6. “新しさ”の暴走と終焉:退廃の時代における風刺として

マンソンの「This Is the New Shit」は、“新しい”という概念がいかに空虚で操作されやすいかを暴露する、退廃美と風刺の結晶である。彼はこの曲を通じて、私たちが「何か新しいもの」を求めるたびに、それがすでにマーケティングの手のひらの上で踊らされている“陳腐な反復”に過ぎないという真実を突きつける。

この曲は、ただの批判ではない。それは現代文化の「死のダンス」に加わることへの“自嘲と共犯の歌”でもある。マリリン・マンソンは「このクソみたいな新しさを、お前らは本当に欲してるのか?」と叫びながら、それを見事にエンタメとして成立させてしまう。
それが、この曲最大の皮肉であり、最大の魅力でもある。


「This Is the New Shit」は、“今こそ新しいものを欲しがるお前たちこそ、もっとも古くさい。”――マリリン・マンソンがそう語りかけてくるような、鮮烈な風刺と暴力性に満ちた一曲だ。表面的な変化に酔いしれる現代社会に対する、怒りと嘲笑、そしてある種の哀しみを、皮肉とビートに変えて叩きつける。
これは単なる“新しい音”ではない。“新しさ”そのものを破壊するための音楽である。

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