1. 歌詞の概要
Swervedriverの「These Times」は、1998年にリリースされた4作目のアルバム『99th Dream』に収録された楽曲である。この時期のSwervedriverは、初期の轟音ギターとスピード感に加え、よりメロディアスでサイケデリックなアプローチを試みていた。「These Times」は、まさにその転換を象徴する一曲であり、静かな内省と穏やかな焦燥が同居する、陰影に満ちた楽曲となっている。
タイトルにある「These Times（この時代）」という言葉には、時代の空気、変わりゆく現実、そしてそこに取り残されたような感覚が込められているように感じられる。歌詞全体を通じて描かれるのは、具体的な物語ではなく、時間の流れの中で揺れ動く感情、過去と現在のはざまで立ち止まるような人間の姿だ。
この曲には、誰もが感じたことのある“今という時間の不確かさ”や“過去への郷愁”が滲んでいる。だがそれは、悲しみではなく、どこか諦めを含んだ優しさで包まれている。感情をむき出しにするのではなく、風に吹かれながら静かに考えるような姿勢が、この「These Times」の詩情なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
1998年のSwervedriverは、商業的には低迷期にありながら、音楽的にはより自由で実験的なフェーズに突入していた。Geffen Recordsとの契約問題の末にアルバム『99th Dream』はZero Hourからインディーリリースされることとなり、大規模なプロモーションもなく、バンドは徐々に活動の終焉へと向かっていくこととなる。
しかし、こうした逆境の中で制作されたこのアルバムには、初期のスピードと衝動とは異なる、深みと成熟が息づいている。「These Times」は、その変化を象徴する楽曲のひとつであり、淡々とした語り口の中に、当時の時代感覚――90年代が終わり、2000年代へと移り変わろうとする空気感――が封じ込められている。
Swervedriverは当初からアメリカン・ロックやサイケデリック、カーカルチャーなどの影響を受けてきたが、この曲ではより内面へと視点が向けられており、その結果として、外を走るバンドではなく、“心の中で旅をするバンド”としての姿を示している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、この曲の印象的な一節を抜粋し、和訳を添えて紹介する。
These times will come and go
この時代は、訪れては去っていくThese rhymes, I don’t even know
この韻（ことば）たち、僕にもよくわからないThe light is fading fast now
光は、いま急速に消えていくBut maybe it was never really there
けれど、もしかしたら初めから存在していなかったのかもしれないAnyway, I don’t really care
まあ、正直もう気にしていないけどね
この一節からは、時間の流れに対する諦念、そしてその中で育った感情への戸惑いが感じられる。“光”という希望の象徴が消えていく描写とともに、それが最初から幻想だったのではないかという疑念すら含まれており、まさに“現実と夢のはざま”を描いているようでもある。
※ 歌詞の引用元：Genius – These Times by Swervedriver
4. 歌詞の考察
「These Times」は、時間というテーマを中心に据えながらも、その捉え方は非常に私的で、感覚的である。歌詞に登場する言葉たちは、いずれも曖昧で断片的だが、それゆえにリスナーは自身の感情や記憶をその空白に重ねることができる。
たとえば「These rhymes, I don’t even know」という一節は、詩を書く人間の迷いや、自分の言葉に対する疑念を表しているようにも思える。音楽家としての自問自答、あるいは表現という営為そのものへの疑念。その背景には、もしかしたらアーティストとしての限界や苦悩が透けて見えているのかもしれない。
一方で、「Anyway, I don’t really care」という締めのラインは、そうした迷いを抱えつつも、“気にしない”という姿勢で前を向こうとする静かな決意のようにも感じられる。この曲は、感情を爆発させるのではなく、感情とともに“折り合いをつけていく”ことの美しさを描いているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Stellar Caprice by Swervedriver
同じアルバム収録。夢見心地なギターと空虚の中に浮かぶ感情が共鳴する。 - Alison by Slowdive
静かな喪失と愛しさが交差するシューゲイズの名曲。 - Don’t Let Our Youth Go to Waste by Galaxie 500
時間と青春というテーマを淡く切り取る、メランコリックなロードソング。 - Disintegration by The Cure
時の流れと崩壊をテーマにした、スロウで壮大なポストパンクの名作。 - Fade Into You by Mazzy Star
感情のぼかしと記憶の霞が、Swervedriverの「These Times」と響き合う。
6. 揺れ動く時代の中で：Swervedriverの“余白”の表現
Swervedriverといえば、ギターの轟音とスピード感、そしてロードムービー的世界観を連想する人も多いかもしれない。だが「These Times」は、そのスタイルから一歩引いた位置に立ち、もっと普遍的で内面的な“時代の感情”をすくい上げている。
この曲には派手な展開やインパクトはない。だが、その代わりにあるのは、どんな時代に生きる人間にも通じる、“通り過ぎていく時間”への静かな共感と、変わらぬ空気のような音の肌触りだ。
Swervedriverがただのギターロック・バンドではなく、感情や記憶の輪郭を音で描ける“叙情派”でもあることを、この「These Times」は静かに、しかし力強く伝えている。人生の速度がふと緩んだとき、この曲はまるで後部座席から外を見つめるような気持ちで、私たちに語りかけてくる。
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