発売日: 1990年4月16日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、パワーポップ、インディーロック
概要
『The Wannadies』は、スウェーデン出身のオルタナティヴ・ロックバンド、The Wannadies(ザ・ワナダイズ) が1990年に発表したセルフタイトルによるデビュー・アルバムである。
90年代以降「You and Me Song」で国際的に知られることになる彼らだが、本作はその出発点にして、すでにポップ感覚と不敵さが詰まった注目作である。
リリース当時、The Wannadiesはパンクの荒さとビートルズ的メロディライン、そしてノイジーなギターを武器に、北欧インディーシーンで一目置かれる存在となっていた。
本作ではすでにその方向性が明確で、ナイーヴさと攻撃性、そしてキャッチーな歌心という3つの軸が絶妙に共存している。
プロデュースはバンドとClaes Perssonによる共同作業で、音の荒さやローファイ感はあるが、その素朴なエネルギーこそがアルバムの魅力となっている。
全曲レビュー
1. My Home Town
ポップなメロディに攻撃的なギターが絡む、“地元賛歌”に見せかけたアイロニカルな一曲。
地方都市の閉塞感と、それでも捨てきれない郷愁が交錯する。
2. He’s Gonna Leave Her
タイトル通りの恋愛関係の終焉を描いたナンバー。
しかし語り口はあくまでポップで、悲しみよりも皮肉と軽さが際立つ構成。
ヴァースからサビへの展開がスムーズで、作曲センスの良さを感じさせる。
3. So Happy Now
幸福を歌っているようでいて、どこか投げやりな空気を含む“反語的ハッピーチューン”。
明るいコード進行と飽和気味のギターが、曲全体を“空元気”な雰囲気で包む。
4. Things That I Would Love to Have Undone
ややメロウなナンバー。
「取り消したいこと」がテーマで、若者特有の後悔や衝動がにじむ。
歌詞に内省的な深みがあり、アルバムの中でも異色の存在。
5. The Beast Cures the Lover
ノイズギターと緊張感あるビートが印象的。
愛と暴力の比喩が交差する、バンド初期のパンク精神を最もよく表した1曲。
6. I Like You a Lalalala Lot
ふざけたタイトルとは裏腹に、メロディはストレートに甘い。
皮肉と本気のバランスを崩さない点がThe Wannadiesらしい。
耳に残るコーラスがクセになる。
7. Lee Remick(The Go-Betweensのカバー)
オーストラリアのインディーバンド、The Go-Betweensへのオマージュ。
原曲へのリスペクトと、自身のポップ感覚の融合が見事なカバー。
8. Don’t Kill the Spring
春=再生や恋を象徴する季節を守ろうというメッセージ。
キャッチーで、環境保護や個人的願望が重なったようなシンプルな祈りが感じられる。
9. Push
怒りと焦燥をストレートにぶつけた、パンキッシュな一撃。
全編を駆け抜けるエネルギーは、ライブでも盛り上がること間違いなし。
10. Smile
アルバムのラストにふさわしい、リスナーに語りかけるような温かみを持つナンバー。
シンプルなメッセージが、ロックバンドとしての優しさを伝えてくる。
総評
『The Wannadies』は、北欧パワーポップ/オルタナティヴ・ロックの萌芽を90年代初頭に提示した重要作である。
決して完成度の高さを誇るアルバムではないが、その代わりに“何者にもなっていない若者たち”の瑞々しい衝動と可能性が詰まっている。
後のポップ全開の傑作『Be a Girl』(1994年)に至る前の段階で、
すでにメロディセンス、皮肉な語り口、ギターの扱いに独自性があり、
インディーながらも国境を越える魅力を備えたバンドであることを証明するデビュー作となっている。
おすすめアルバム
- Ash『1977』
90年代青春ギターロックの代名詞。The Wannadiesのテンションと共通する勢い。 - The Lemonheads『It’s a Shame About Ray』
メロウでひねくれたポップセンスが近似。内省と明るさの共存。 - Blur『Leisure』
デビュー期の若干荒削りなブリットポップ。瑞々しい初期衝動が重なる。 - Sahara Hotnights『Jennie Bomb』
同じくスウェーデン出身。ガレージ×パワーポップ的な感覚がリンク。 -
The Go-Betweens『16 Lovers Lane』
カバー元でもあるバンド。メランコリックで文学的なポップセンスが基盤。
ファンや評論家の反応
『The Wannadies』はスウェーデン国内では好意的に受け入れられ、
北欧インディーシーンの新たなポップ象徴として一定の評価を受けた。
ただし海外ではまだ無名に近く、その後の英進出と「You and Me Song」ブレイクまでは数年を要することとなる。
現在では、The Wannadiesの出発点として再評価されることが多く、
荒削りな中にも彼らのエッセンスが詰まった原石のような作品として愛されている。
ポップになりすぎる前の、ロックバンドとしてのThe Wannadiesの本質がここにある。
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