発売日: 1967年3月12日
ジャンル: アートロック、プロトパンク、エクスペリメンタルロック
1967年にリリースされたThe Velvet Underground & Nicoは、音楽史において最も重要で革新的なアルバムのひとつである。アンディ・ウォーホルがプロデュースを手掛けたこの作品は、商業的には成功しなかったものの、アートと音楽の境界を押し広げる作品として後に高く評価されることになる。アルバムジャケットに描かれたバナナのデザインはウォーホルの手によるもので、現在ではアートの象徴としても広く知られている。
このアルバムは、ルー・リードのダークで詩的な歌詞、ジョン・ケイルのアヴァンギャルドなアレンジ、そしてドイツ出身の歌手ニコの冷たく美しいボーカルが融合し、当時のロック音楽とは一線を画す独特のサウンドを作り上げた。ドラッグ、セクシュアリティ、暴力といったタブーに正面から向き合った歌詞と、ミニマルで挑発的な音楽は、後のパンク、ニューウェーブ、オルタナティブロックに多大な影響を与えた。
トラック解説
1. Sunday Morning
透き通ったグロッケンシュピールの音色と穏やかなボーカルが特徴的なアルバムのオープニング曲。ルー・リードが歌うこの曲は、夢見心地なメロディと内省的な歌詞が印象的。「Watch out, the world’s behind you…」という一節には、日曜日の朝の静けさに潜む一抹の不安が感じられる。
2. I’m Waiting for the Man
ニューヨークの裏通りで麻薬ディーラーを待つ様子を描いた一曲。シンプルなピアノリフとギターが繰り返される中、リードの乾いた語り口が、都市の冷酷な現実を生々しく伝える。「$26 in my hand」というフレーズは、具体的で映画的な描写として心に残る。
3. Femme Fatale
アンディ・ウォーホルがニコのために用意したこの曲は、冷たくも魅惑的な「ファム・ファタール」を描いている。ニコの控えめで落ち着いたボーカルが、歌詞に込められた皮肉と哀愁を引き立てる。
4. Venus in Furs
レオポルド・フォン・ザッハー=マゾッホの小説『毛皮を着たヴィーナス』にインスパイアされた楽曲で、性的倒錯をテーマにしている。ジョン・ケイルが奏でるドラーニングなヴィオラと、ルー・リードの低く囁くような歌声が、不穏で官能的な雰囲気を作り出している。
5. Run Run Run
疾走感あふれるギターリフとリードの荒々しいボーカルが特徴のロックナンバー。歌詞は麻薬と街頭生活を描写しており、「Seasick Sarah」といったキャラクターが生き生きと登場する。荒々しいギターソロが楽曲のエネルギーをさらに高めている。
6. All Tomorrow’s Parties
アンディ・ウォーホルが通っていた前衛的なパーティーシーンをテーマにした楽曲。ニコの深く冷たいボーカルと、ミニマルなピアノのリフが印象的で、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。孤独感と儚さが全編に漂う一曲だ。
7. Heroin
このアルバムの中でも最も挑発的な楽曲。ドラッグ体験を詳細に描いた歌詞と、それを増幅するようなギターとドラムの緩急が際立つ。「When I’m rushing on my run…」からクライマックスに向けて音楽が爆発する瞬間は、まるでトランス状態に陥るような圧倒的な迫力を持つ。
8. There She Goes Again
明るいポップ調のメロディとは裏腹に、内容は売春婦についての歌詞が含まれる。ギターリフは1960年代のロックンロールを彷彿とさせつつも、歌詞が提示する現実とのギャップが衝撃的だ。
9. I’ll Be Your Mirror
ニコが歌う短く美しいバラードで、アルバムの中でも比較的優しいトーンの楽曲。歌詞は愛と献身をテーマにしており、「I’ll be your mirror, reflect what you are」という一節は詩的で、シンプルながらも深く心に響く。
10. The Black Angel’s Death Song
ジョン・ケイルのヴィオラが不協和音を奏で、ルー・リードのストリーム・オブ・コンシャスネス的な歌詞が続く、実験的なトラック。抽象的で挑戦的な構成が、聴き手の感覚を試すような印象を与える。
11. European Son
7分を超えるアルバムのラストトラック。歌詞はほとんど省略されており、即興演奏がメインとなる。ギターとヴィオラがぶつかり合うようなカオスの中で、バンドのアヴァンギャルドな一面が最大限に発揮されている。
アルバム総評
The Velvet Underground & Nicoは、ロック音楽の歴史において唯一無二の地位を占めるアルバムである。その大胆なテーマと実験的なサウンドは、リリースから半世紀以上経った今もなお斬新さを失わない。ニコのクールで儚げなボーカルと、ルー・リードの鋭い歌詞が作り上げる世界観は、聴き手を引き込む魔力を持つ。このアルバムは、パンク、ニューウェーブ、オルタナティブロックなど、後の音楽に計り知れない影響を与えた歴史的名盤である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Patti Smith – Horses
詩的な歌詞とシンプルながら力強いサウンドが特徴。The Velvet Undergroundの影響を受けた独特のスタイルを楽しめる。
David Bowie – The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars
アートとロックを融合させた作品で、実験的な側面がThe Velvet Underground & Nicoと共通する。
Iggy Pop and The Stooges – Raw Power
プロトパンクの名盤。荒々しいサウンドと挑発的な歌詞が特徴で、Velvet Undergroundのファンに刺さる一枚。
Sonic Youth – Daydream Nation
ノイズロックの名作で、実験的なサウンドとアート性がVelvet Undergroundを彷彿とさせる。
Nico – Chelsea Girl
The Velvet Underground & Nicoでの経験を経てリリースされたソロアルバム。彼女の独特な世界観を堪能できる。
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