アルバムレビュー：The Universe Inside by The Dream Syndicate

アルバムレビュー

2025.04.22

発売日: 2020年4月10日
ジャンル: サイケデリックロック、アートロック、エクスペリメンタル

概要

『The Universe Inside』は、The Dream Syndicateが2020年に発表した再結成後3作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアにおける最も野心的かつ実験的な作品として位置づけられる。

本作でバンドは、1970年代のジャーマン・ロック（Can、Neu!、Ash Ra Tempel）やマイルス・デイヴィスのエレクトリック期からの影響を色濃く取り入れ、これまでの“アメリカン・ギター・バンド”像を脱構築していく。

アルバム全体がほぼ即興セッションをもとに構成されており、その中から編集された5曲は、いずれも10分前後の長尺トラック。
リフレイン、ループ、アトモスフェリックなギター、サックス、シンセが絡み合い、リスナーを“内なる宇宙”へと導く音の旅が展開される。

“ポスト・ロックでも、サイケデリックでも、ジャズでもないが、それらすべてを包含している”——
それが本作の圧倒的なスケール感とユニークな立ち位置を決定づけている。

20分を超えるオープニング・トラックにして、アルバムの核心。
ベースのグルーヴとドラムの反復が基盤となり、ギターとサックス、キーボードが次々と層を成していく。
中盤以降にはスティーヴ・ウィンのヴォーカルも登場するが、それすらも音の一部として機能している。
これは“曲”ではなく、もはや“場”なのだ。

ミディアム・テンポのリフレインが中心のトランス的ナンバー。
サックスとギターの絡みが持続する中で、“渇望”というテーマが静かに繰り返される。
催眠的でありながら情感がこもっており、聴く者の内側に長く残る。

タイトルが示す通り、“何にも関係のない”自由な即興性に満ちた楽曲。
ファズの効いたギターと、不安定に揺れるシンセが不穏な美しさを形作る。
ポスト・プログレ的アプローチが最も顕著に現れている。

リズム主体のトラックで、サイケデリック・ファンク的な印象すらある。
ここではバンドのメンバーそれぞれの演奏がより個別に際立ち、“ジャム・バンドとしてのDream Syndicate”が強く現れる。
トランペットやシタール風の音色も交えられ、異国情緒も。

アルバムの締めくくりにふさわしい、耽美で内省的な楽曲。
そのタイトル通り、ゆっくりと、あえて動きを抑えた構成が特徴。
声と楽器が対等に浮かび上がり、聴き手を夢から覚まさぬままアルバムが終わっていく。

『The Universe Inside』は、The Dream Syndicateが自らの過去のフォーマットを大胆に超越し、“ロック”という形式そのものを解体・再構築した作品である。

それはもはやソングライティングの勝負ではない。
音の持続、即興の流れ、空間の変容、そして“時間”という要素との対話にこそ焦点がある。

この作品を聴くということは、もはや楽曲を追う行為ではなく、“流れに身を委ねる体験”である。
静と動、混沌と秩序、聖と俗が入り混じるその音世界は、リスナー一人ひとりの“宇宙の内側”に触れる。

80年代のレジェンドがたどり着いた“音の終わりなき現在地”。
それこそが『The Universe Inside』の真価であり、聴き手にとっての挑戦であり、祝福でもある。