発売日: 1973年6月18日
ジャンル: ロック、アートロック、サイケデリック・ロック、カントリーロック
“煙”の向こうに見えた風景——Joe Walshが描いたジャンルを超える音の自由地図
『The Smoker You Drink, the Player You Get』は、Joe Walshにとってソロ2作目にあたるアルバムであり、
彼のキャリアの中でも最も多彩で実験的、かつ成功を収めた作品として知られている。
本作は前作『Barnstorm』の流れを汲みつつも、
ハードロック、カントリー、ジャズ、サイケ、フォークといったジャンルを自在に行き来する“ジャンルの地平線”のようなアルバムとなっている。
ウォルシュはあえてバンド体制を継続し、“Barnstorm”名義のまま制作したが、
実際には彼の音楽的ヴィジョンとプロダクション能力が完全に主導している。
また、シングル「Rocky Mountain Way」のヒットにより、彼の名は一躍メインストリームに躍り出た。
その成功の裏には、単なるギタリストではない、多面的なソングライター/ストーリーテラーとしてのウォルシュの姿があった。
全曲レビュー
1. Rocky Mountain Way
アルバムの看板曲にして、ウォルシュ最大の代表作のひとつ。
ナショナル・スティール・ギターによるリフとトークボックスを駆使したギターソロが印象的。
“人生をやり直す自由”を歌ったリリックが、ロッキー山脈の広大な風景と共鳴する。
2. Bookends
繊細なピアノとコーラスが美しい、サイケデリック・ポップのような夢想的ナンバー。
『Barnstorm』の延長にある内省的な美しさを感じさせる。
3. Wolf
ジャズ的なコード進行とファンクのグルーヴが特徴の異色作。
“狼”をモチーフにしたこの曲は、ウォルシュの実験精神の象徴のような存在。
4. Midnight Moodies
フルートやローズ・ピアノが活躍する、ラウンジ・ジャズ風インストゥルメンタル。
アルバム中最も異国的かつ幻想的な音像が広がる。ムーディーでシネマティック。
5. Happy Ways
カリブ風のリズムに、陽気なコーラスとホーンが乗るトロピカル・ロック。
この多様性が本作の魅力であり、ジャンルの枠に囚われないウォルシュの自由さが滲む。
6. Meadows
ドライブ感のあるリズムとスライドギターが特徴のハードロック・ナンバー。
“逃げ場所のない現実”を描いた歌詞と、浮遊感のあるサウンドが心地よく背反する。
7. Dreams
甘いコードと優雅なメロディが印象的なスローバラード。
ジョー・ウォルシュのメロディメイカーとしての才能が光る。
8. Days Gone By
アコースティックなイントロから、壮大なアンサンブルに発展するプログレッシブ・フォーク的な構成。
失われた時間への郷愁と、それを見つめる冷静な視線が交差する。
9. Day Dream (Prayer)
アルバムのクロージングを飾るにふさわしい、祈りのような静かなエンディング。
荘厳さと希望、そしてどこかに漂う諦念——
ジョー・ウォルシュの音楽がどこまでも“人間的”であることを象徴するラストである。
総評
『The Smoker You Drink, the Player You Get』は、
ジョー・ウォルシュが“ギターヒーロー”という枠を越え、トータルなアーティストとして飛翔した瞬間を捉えた傑作である。
その魅力は、ひとつのジャンルに縛られず、内省と陽気さ、技巧と感情、風景と都市感覚が自由に混ざり合うところにある。
このアルバムは、まるで自由な心が描いた音の地図のようであり、
リスナーはそれぞれの曲に、異なる時間と風景を見出すことができる。
“スモーカーは、プレイヤーよりも深く吸い込む”——
そんなタイトルに込められた皮肉と遊び心の奥に、
ジョー・ウォルシュという人物の複雑な魅力が隠れているのだ。
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