発売日: 1997年6月24日
ジャンル: ポスト・グランジ、ハードロック、オルタナティヴ・ロック
概要
『The Nixons』は、オクラホマ出身のオルタナティヴ・ロックバンドThe Nixonsが1997年にリリースしたセルフタイトル・アルバムであり、メジャー第2弾にして彼らの音楽的アイデンティティを再定義した作品である。
前作『Foma』（1995）の成功により、The Nixonsは一躍90年代ポスト・グランジ・シーンで注目を集めた。
しかし本作では、バンドはよりハードでタイトなサウンドへと舵を切り、感傷的なバラードよりも、直線的で男臭いロックンロールに重点を置いている。
メロディアスな要素は健在ながら、ギターリフとグルーヴを中心とした構成により、よりライヴ感・疾走感が前面に押し出されているのが特徴だ。
セルフタイトルが示すように、このアルバムはバンド自身による“再出発”あるいは“内面的な定義づけ”とも言える。
商業的には『Foma』ほどの成功を収めなかったものの、ファンの間では“最もロックバンドらしいNixons”として根強い評価を得ている作品である。
全曲レビュー
1. Sad, Sad Me
タイトル通り自己嫌悪を歌うオープニング。
ざらついたギターとシャウト気味のボーカルが直情的な魅力を放つ。
2. Baton Rouge
リズミカルでタイトなロックチューン。
地名がタイトルになっているが、実際は“行き場のない逃避”を象徴するメタファーとして機能している。
3. Miss USA
アメリカの虚飾とメディア文化を皮肉った攻撃的なナンバー。
ポスト・グランジ的な社会批評のセンスが光る。
4. The Fall
内省的なミッドテンポ・ロック。
“堕ちていく”ことを恐れるのではなく、受け入れようとする静かな決意が描かれる。
5. Butterfly
本作中もっともメロディアスで叙情的なナンバー。
静と動のコントラストが際立ち、歌詞も詩的で、バンドの繊細な側面を感じさせる。
6. Song of the Year
皮肉とユーモアを効かせたロックアンセム。
「これが年間最優秀曲？」と自問するような反語的構成が面白い。
7. Blackout
ヘヴィで低音が効いたダークトラック。
酩酊、記憶の欠如、逃避というテーマがグランジの流れを汲んでいる。
8. Everything’s Cool
不安を“クールに振る舞う”ことで隠す現代的な態度をテーマにした中毒性の高い1曲。
軽快なリズムとダウナーなリリックの対比が秀逸。
9. Bless My Soul
宗教的モチーフを下敷きに、自己救済と再生の難しさを描く。
ボーカルの力強さが最も際立つトラックのひとつ。
10. October
秋という季節を舞台にした、喪失と郷愁をテーマにしたバラード。
アルバムの中でも最も叙情性の高い佳曲。
11. In Spite of Herself
タイトルが示すように、意図せずに傷つけてしまう関係性の複雑さを描く。
シンプルな構成だが、感情の乗った歌声が胸に響く。
総評
『The Nixons』は、The Nixonsが“バンドとしての輪郭”を明確にしようとしたアルバムであり、より筋肉質でストレートなロック・サウンドを志向した作品である。
『Foma』の成功で築いたバラード的イメージからの脱却を図り、ここではタフでグルーヴィーなバンドアンサンブルが強調されている。
その変化は必ずしも商業的な成功をもたらしたわけではないが、結果的にファンの間では“本物のNixons像”として再評価されることとなった。
また、社会批評的なリリックの鋭さや、ユーモアを交えた構成など、音楽以外の知的な魅力も光る。
90年代後半、ポスト・グランジが大衆化と均質化の波に飲まれる中で、The Nixonsはこの作品によって“ロックバンドであること”を選び取った。
『The Nixons』は、その選択の証明であり、ある種の“頑固さ”が逆に魅力として響く、硬派なロック・アルバムなのである。
おすすめアルバム（5枚）
- Local H / Pack Up the Cats
同時期に登場した2ピース・バンド。社会風刺と骨太サウンドが共通。 - Silverchair / Freak Show
ポスト・グランジの中でもヘヴィかつダークな側面を押し出した代表作。 - Seven Mary Three / American Standard
ブルースとグランジの融合的スタイルで、『The Nixons』の土臭さと重なる。 - Days of the New / Days of the New (Orange Album)
アコースティック主体ながら、同様に“ロックの原型”を探る硬派な姿勢が近い。 - Creed / My Own Prison
宗教的モチーフと正統派ロックの融合。ボーカルの存在感にも共通点あり。
制作の裏側（Behind the Scenes）
『The Nixons』は、前作の成功後に引き続きMCA Recordsからリリースされ、よりライヴに近い音像と自然体のアンサンブルを意識して制作された。
プロデュースには元The CallのMichael Beenが関与し、よりダイレクトなサウンド設計が行われた。
バンドはこのアルバムを通して、メジャー流通下でも“自分たちのやりたい音”を妥協せず追求するというスタンスを貫いた。
結果的に、1990年代のポスト・グランジが次第に均質化していく中で、この作品は異彩を放つ存在となった。
The Nixonsのセルフタイトル作は、“主張”としての音楽であり、ジャンルの枠に収まらないバンドの誇りが詰まった1枚なのだ。
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