発売日: 1971年7月
ジャンル: カントリーポップ、フォークロック、アダルトコンテンポラリー
概要
『The Last Time I Saw Her』は、グレン・キャンベルが1971年に発表したスタジオアルバムであり、
彼のカントリーポップ路線にフォークの叙情性をより色濃く取り入れた、静かな深化を示す作品である。
表題曲「The Last Time I Saw Her」は、ゴードン・ライトフットによるカバーで、
繊細なアレンジとグレン・キャンベルの柔らかな歌唱によって、
失われた愛への深い追憶と痛みが丁寧に表現されている。
アルバム全体は、
過剰なオーケストレーションを避け、
シンプルなサウンドと豊かな感情表現に重点を置いた内省的な作品となっている。
全曲レビュー
1. The Last Time I Saw Her
タイトル曲。
失われた恋の記憶を、静かで深いメロディに乗せて描く。
グレン・キャンベルの透明感のある歌声が、
過ぎ去った時間への切ない憧れを優しく包み込む。
2. Rose Garden
リンダ・ロンシュタットやリン・アンダーソンもカバーした有名曲。
明るいメロディとは裏腹に、
人生の現実と妥協を受け入れる冷静な視点を持つ。
3. Help Me Make It Through the Night
クリス・クリストファーソン作のバラード。
孤独な夜に寄り添う静かな祈りのような歌唱が心に沁みる。
4. She Understands Me
理解と許しを求める男性の不器用な心情を、
穏やかに描くカントリーポップナンバー。
5. He Ain’t Heavy, He’s My Brother
ホリーズの名曲カバー。
重厚なテーマを、より柔らかく、
優しいトーンで再解釈している。
6. If You Could Read My Mind
再びゴードン・ライトフット作。
愛の終焉と言葉にならない感情を、
静かに、しかし力強く描いた秀逸なカバー。
7. Dream Baby (How Long Must I Dream)
ロイ・オービソンの軽快なナンバー。
アルバム中では少し明るいアクセントになっている。
8. Today Is Mine
自己肯定と前向きな人生観をテーマにした、
温かく静かなメッセージソング。
9. Here’s That Rainy Day
失恋後の心情を、雨に重ね合わせたスタンダードナンバー。
ジャズ的なニュアンスも漂う繊細なバラード。
10. Reason to Believe
ティム・ハーディンの名曲カバー。
愛と裏切りの間で揺れる複雑な感情を、
淡々と、しかし深い情感を込めて歌い上げる。
総評
『The Last Time I Saw Her』は、
グレン・キャンベルが大きなヒット狙いではなく、
ひとつひとつの楽曲に誠実に向き合い、
静かな感情の機微を丁寧に紡いだアルバムである。
前作『Try a Little Kindness』までの、
明るく朗らかなカントリーポップ路線から一歩踏み込み、
ここではより内面的で叙情的な世界が広がっている。
カバー曲中心の構成でありながら、
どの楽曲にもグレン・キャンベル独自の
温もりと繊細さがしっかりと息づいている。
『The Last Time I Saw Her』は、
時代に流されず、音楽そのものと誠実に向き合ったグレン・キャンベルの静かな名作なのである。
おすすめアルバム
- Glen Campbell / Wichita Lineman
静かな哀愁と広がりを持った、カントリーポップの最高峰。 - Gordon Lightfoot / Sit Down Young Stranger
同時代、叙情的なフォークポップを極めたカナダの名シンガーソングライターによる傑作。 - Kris Kristofferson / Kristofferson
孤独と現実を冷静に見つめたフォークカントリーの名盤。 -
Glen Campbell / Galveston
戦争の影と故郷への想いを繊細に描いたカントリーポップ名作。 -
James Taylor / Sweet Baby James
70年代初頭、静かな叙情とフォークのエッセンスを融合させた記念碑的作品。
歌詞の深読みと文化的背景
1971年――
ベトナム戦争の泥沼化、公民権運動の成果と限界、
そしてアメリカ社会全体に広がる閉塞感と疲弊。
そんな時代に『The Last Time I Saw Her』が描くのは、
社会的メッセージではなく、
**もっと個人的で普遍的な感情――
愛、失恋、孤独、再生――**である。
「The Last Time I Saw Her」や「If You Could Read My Mind」では、
人間関係の終焉と記憶の残響が静かに語られ、
「Today Is Mine」では、
絶望の中でも今日という一日を生きることへの小さな希望が歌われる。
グレン・キャンベルは、
時代の混乱を声高に叫ぶのではなく、
一人ひとりの心の奥に寄り添うような歌を選び、
静かな共感を紡ぎ出した。
『The Last Time I
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