発売日: 2006年10月17日(US)
ジャンル: ポップ、R&B、ソウル、アーバン・ポップ
概要
『The High Road』は、JoJoが16歳で発表した2作目のスタジオ・アルバムであり、成熟したボーカルと大胆なジャンル横断で“ティーンポップの殻を破った”名作である。
前作『JoJo』(2004年)の成功を受けて制作されたこの作品では、JoJo自身の歌唱力と表現力が大幅に成長し、より大人びたR&Bとダンス・ポップへと音楽性を広げた。
アルバムのプロデューサー陣にはScott Storch、J.R. Rotem、Sean Garrett、Swizz Beatzらが名を連ね、当時のUSアーバン・ポップ最前線を牽引する布陣となっている。
代表曲「Too Little Too Late」は全米3位を記録し、JoJoの“少女からアーティストへ”の過渡期を象徴するナンバーとして今なお評価が高い。
全曲レビュー
This Time
JoJoのヴォーカルがさっそく全開となるパワフルなR&Bナンバー。
「今度こそは譲らない」という自立心と覚悟を歌った、アルバムの“決意表明”とも言える一曲。
The Way You Do Me
Scott Storchが手がけたダンサブルなポップ・R&B。
フックのリズムとJoJoのグルーヴ感が見事に融合し、クラブ映えする軽やかさを備えている。
Too Little Too Late
アルバム最大のヒット曲であり、JoJoの代表作。
切ない別れをテーマにしたバラード・ポップで、強くなった自分と過去へのけじめを歌う。
メロディ、歌詞、ヴォーカルが完璧に噛み合った名バラード。
The High Road
タイトル曲にしてアルバムの精神的軸。
「怒りではなく、自分らしく前に進む」という意味での“高い道”を選ぶ姿勢を、ソウルフルに描写。
JoJoの成長がにじむ1曲。
Anything
Totoの「Africa」を大胆にサンプリングしたユニークな楽曲。
懐かしさと現代的R&Bのミックスが、JoJoの歌声で新鮮に響く。
Like That
J.R. Rotemプロデュースによるエッジの効いたアーバン・トラック。
“あの人のようにはなれない”という嫉妬と葛藤を、JoJoが等身大で描く。
Good Ol’
古き良き愛の記憶を振り返る、ソウルフルで温かみのあるバラード。
JoJoの情感豊かなボーカルが心に染みる。
Coming for You
強気なリズムとビートに乗せた、恋の“奪還宣言”。
JoJoの攻めの姿勢と、16歳とは思えないセクシーなニュアンスが交錯する。
Let It Rain
アコースティックギターとストリングスを基調にした、繊細で美しいバラード。
「涙を雨に変えて、すべてを流す」というイメージが詩的で、JoJoの声の瑞々しさが際立つ。
Exceptional
“普通であることの尊さ”を歌ったミッドテンポの自己肯定ソング。
JoJoがティーン世代に寄り添うように、「特別じゃなくてもいい」と語りかける優しいナンバー。
How to Touch a Girl
思春期の心の壁と、恋に対する不安を静かに描いたバラード。
JoJoのナイーブさと成熟が同居した、非常にリアルなラブソング。
Note to God
終盤に配置された、神への“手紙”という形式のゴスペル調バラード。
世界の痛みや自分の願いを神に問いかける構成は、JoJoの精神性の高さを感じさせる。
圧巻のヴォーカルでアルバムを締めくくるにふさわしい。
総評
『The High Road』は、JoJoが単なるティーン・スターから**“真のボーカリスト”へと脱皮を遂げた記録**である。
歌詞のテーマはティーンの恋愛や葛藤が多いものの、そこに込められた感情の深さや音楽的な洗練度は大人顔負け。
R&B/ポップの中間地点にありながら、どちらのジャンルにも誠実である稀有なポップ・アルバムとして際立っている。
また、JoJoの歌声はこの時点ですでに“完成された楽器”のようであり、時にパワフルに、時に繊細に感情を描き分けることができている。
「Too Little Too Late」での力強い切なさ、「Let It Rain」での繊細なタッチ、「Note to God」での魂の叫び――いずれも、彼女の表現者としての核を感じさせる瞬間だ。
アルバム全体を通じて感じられるのは、“成長する少女”というよりも、“自分の表現に目覚めたアーティスト”の姿であり、それが『The High Road』というタイトルの意味と完璧に重なる。
おすすめアルバム(5枚)
- Kelly Clarkson / Breakaway
ポップとエモーショナルな表現が融合した名盤。JoJoと同時代的な共鳴。 - Christina Aguilera / Stripped
強さと脆さを両立する女性ボーカル・アルバムの傑作。JoJoの精神性に近い。 - Brandy / Full Moon
エッジの効いたR&Bと卓越したボーカル力。JoJoのルーツに近い一枚。 - Jordin Sparks / Jordin Sparks
JoJoと同じく若くしてボーカル力が評価されたポップR&Bアーティストの代表作。 - Alicia Keys / The Diary of Alicia Keys
ピアノとソウルで感情を深く描いた傑作。JoJoのバラードとの共鳴性が高い。
歌詞の深読みと文化的背景
『The High Road』のリリックは、ティーン・ポップにありがちな“恋のときめき”だけでなく、人間関係、自己肯定、社会へのまなざしといったより広いテーマへと踏み込んでいる。
特に「Exceptional」や「Note to God」では、自分の不完全さや世界の痛みを受け止めようとする知性と感受性が表れており、JoJoの表現が「年齢」や「市場」の枠を超えていることがわかる。
さらに、「Too Little Too Late」や「The High Road」では、自分を安売りしないという強い意志が込められ、“受け身の恋愛”ではなく“選び取る自己”を描くフェミニンな視点が鮮明である。
『The High Road』は、10代のリスナーにとって“等身大の代弁者”でありながら、同時に音楽的にも倫理的にも、誠実なスタンスを提示したポップ・アルバムの模範である。
JoJoが選んだ「高い道」は、そのまま“自分らしく強く生きる”という普遍的なメッセージに変換されているのだ。
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