
1. 歌詞の概要
「that way」は、Tate McRaeが2020年にリリースしたデビューEP『all the things i never said』に収録された楽曲であり、静かでミニマルなサウンドとともに、感情の機微を繊細に描いたバラードである。この楽曲は、“ただの友達”という言葉に隠された切ない想いと、言葉にできない関係性の曖昧さをテーマにしており、特に思春期の恋愛や片思いのもどかしさをストレートに描いている。
主人公は、明確な恋人関係ではないが、親密で特別な時間を共有する相手に対し、次第に恋愛感情を抱いてしまう。しかし相手はその気持ちに気づいていない、あるいは知っていてもあえて距離を取っているように振る舞っている。そんな中で生まれる、満たされない思い、期待と諦めの狭間で揺れる感情が、静かに、しかし鋭く描写されている。
「ただの友達なんだから、そんな風に見ないでよ」「でも、どうして?」という内なる葛藤こそが、この曲の核である。恋愛未満、友情以上の関係性にある者なら誰もが共感しうる“曖昧な距離感”が、淡々としたメロディの中にこめられている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「that way」は、Tate McRaeが10代の感性をそのまま音楽に落とし込んだことで、多くの同世代の共感を呼んだ楽曲のひとつである。特に彼女は、自身の内面や体験を日記のように言葉にして綴るスタイルが特徴であり、この曲もまた、実際の経験に基づいたとされる。
プロデューサーにはNick Ruthが参加し、余白の多いシンプルなピアノアレンジとTateのウィスパーボイスが、楽曲の孤独感と哀しみを引き立てている。強い感情を叫ぶのではなく、むしろその“言えなさ”に焦点を当てている点が、この曲の魅力であり、多くのリスナーに深く刺さる要因でもある。
この楽曲は、TikTokでの使用をきっかけに人気が広がり、特にリリースからしばらく経ってからバイラルヒットとなった。多くのユーザーが「曖昧な関係性」や「片思い」に関する動画とともにこの曲を使用したことから、そのテーマの普遍性が浮き彫りになった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「that way」の中から印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。
引用元:Genius Lyrics – that way
“Friends don’t look at friends that way”
友達って、そんなふうに見つめたりしない。
“Friends don’t look at friends that way”(繰り返し)
友達なのに、そんなふうに見つめるなんておかしいよ。
“Can’t even look me in the eye”
私の目を見てくれない。
“When you’re telling me a lie”
嘘をついてるとき、目をそらすあなた。
“You know I’m thinking of you”
私があなたのことを考えているって、きっとわかってるはず。
“Maybe if I knew what’s on your mind”
もしあなたの心の中を知れたなら。
この曲のサビ「Friends don’t look at friends that way」は、恋愛関係ではないはずの相手の視線や行動に混乱し、自分の感情と相手の態度とのギャップに苦しむ主人公の心情を的確に表現している。相手も自分に気があるのではと期待しながら、結局はその気がないことを悟り、どこにもぶつけられない切なさを抱えている様子が痛いほど伝わってくる。
4. 歌詞の考察
「that way」は、“未定義な関係”に対する葛藤と、そこからくる苦しさを描いた作品である。恋愛と友情の境界線は時に曖昧で、その狭間にいるとき、人は最も脆く、孤独を感じる。恋人ではないからこそ、気持ちを伝えることもできず、でも、ただの友達として過ごすには近すぎる。そんな曖昧な関係性に置かれたときの感情の複雑さを、Tate McRaeはシンプルな言葉で表現している。
特に、「Friends don’t look at friends that way」というフレーズは、相手の目線に“特別な感情”を見てしまった自分と、それを否定する相手との間にあるズレを鋭く捉えている。視線ひとつ、仕草ひとつに意味を求めてしまう、恋をしている時の過敏な感情が、ここには詰まっている。
また、サウンドの抑制された構成が、まるで“言いたくても言えない気持ち”そのものを体現しているように感じられる。激情ではなく、言葉にできないまま積もっていく想いの重さ。その静けさこそが、聴く者の心に刺さる理由だろう。
この楽曲は、恋の始まりでも終わりでもない、“その手前”にある感情の揺らぎを美しく描いており、その曖昧さこそがリアルだと、多くのリスナーが共感している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Heather” by Conan Gray
自分が恋する相手が他の人に恋をしている状況を歌い、「that way」と同じく苦しい片思いを描いている。 - “Out of Love” by Alessia Cara
恋が終わったことに気づきながらも諦めきれない気持ちを歌ったバラード。 - “The Night We Met” by Lord Huron
失われた関係性への後悔と願いが強く響く曲で、静かな切なさが共通している。 - “i hate u, i love u” by gnash ft. Olivia O’Brien
お互いを想いながらもすれ違う感情を描いた、友情と恋の狭間にある関係性をテーマにした一曲。 -
“Almost Is Never Enough” by Ariana Grande & Nathan Sykes
“もう少しで恋になったはず”という未練と痛みが、「that way」と響き合う。
6. “未満の関係”が与えるリアルな痛みと希望
「that way」が多くの共感を得た背景には、恋愛において言葉にされない感情がどれだけ人を縛るかという真理がある。相手の一言、視線、距離の取り方、そのどれもが“期待”と“失望”の引き金になりえる。恋愛はときに、始まるよりも始まらないまま終わる方が、ずっと苦しいことがある。
Tate McRaeは、この“始まらなかった恋”を責めるのではなく、ただ丁寧に見つめることで、聴く人の感情を静かに救っている。明確な答えが出ないまま関係が終わってしまう、その痛みの中にある美しさと、優しい肯定。そこにこそ、Tate McRaeのシンガーソングライターとしての真価がある。
「that way」は、Z世代の“言葉にできない感情”の象徴として、これからも多くの人に聴かれ、共感されていくであろう。静かに、しかし確かに、心を揺らす一曲である。
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