アルバムレビュー：Ten by Pearl Jam

発売日: 1991年8月27日
ジャンル: グランジ、オルタナティブロック

「Ten」は、Pearl Jamのデビューアルバムであり、90年代のグランジムーブメントを象徴する作品の一つである。カート・コバーン率いるNirvanaと並んで、シアトル発のグランジロックシーンを牽引したバンドとして広く知られており、このアルバムで彼らは一躍スターダムに駆け上がった。力強いギターリフ、エモーショナルな歌詞、Eddie Vedderの深く荒々しいボーカルが組み合わさり、怒り、悲しみ、疎外感といったテーマを真っ向から表現している。メインストリームへの成功を収めながらも、Pearl Jamはこの作品で商業主義と距離を置いた姿勢を保ち、ロックの精神を貫き通した。

各曲ごとの解説:

Once
　アルバムの幕開けを飾る「Once」は、迫力あるギターリフと力強いリズムで、Eddie Vedderの熱いボーカルが炸裂する。歌詞は暴力と怒りをテーマにしており、心の葛藤を激しく表現している。テンポが徐々に加速する構成が、内なる混乱と狂気を象徴している。
Even Flow
　「Even Flow」は、Pearl Jamの代表的なヒット曲の一つ。浮浪者の孤独感と社会からの疎外感を描いた歌詞が特徴で、Eddie Vedderのパワフルなボーカルが響く。Jeff Amentの躍動感のあるベースラインとMike McCreadyのブルースに影響されたギターソロが曲を引き締めている。
Alive
　「Alive」は、自伝的な内容が込められた楽曲で、Vedderが自身の家族の複雑な背景を題材にしている。痛みや絶望をテーマにしながらも、サビでは「I’m still alive」と生きることへの希望が強調される。特にMcCreadyのギターソロが印象的で、聴く者に強烈な感動を与える。
Why Go
　「Why Go」は、若者の反抗心と社会に対する怒りがテーマの楽曲。Vedderの叫びにも似たボーカルが、精神的な抑圧と孤立感を激しく訴えかけている。リズムセクションがタイトで、エネルギッシュなギターリフが全体を支えている。
Black
　「Black」は、アルバムの中で最もエモーショナルなバラードの一つで、喪失と絶望をテーマにしている。Vedderの悲痛な歌詞とメロディが、聴く者の心に深く響く。メランコリックなギターと感情のこもったボーカルが調和し、Pearl Jamの感情表現の幅広さを示している。
Jeremy
　「Jeremy」は、学校でのいじめや疎外感をテーマにした実話を基にした楽曲。Vedderの表現力豊かなボーカルと、ドラマチックなアレンジが曲全体に緊張感を与えている。特に、静かに始まりながら次第に激しさを増す展開が印象的で、心に残るメッセージ性を持った一曲。
Oceans
　「Oceans」は、Pearl Jamのサウンドの中でも異色の、穏やかで夢幻的な楽曲。ドラムとベースが波のように穏やかに繰り返され、Vedderのボーカルが海の広がりと孤独を表現している。シンプルな構成ながら、深い感情を引き出す。
Porch
　「Porch」は、スピード感のあるエネルギッシュな楽曲で、怒りや反抗をテーマにしている。Vedderのボーカルは激しく、ギターソロが力強いパンク的な勢いを感じさせる。シンプルなリフと強烈なエモーションが一体となって、ライブでの定番曲にもなっている。
Garden
　「Garden」は、神秘的な雰囲気を持つトラックで、リバーブの効いたギターサウンドが印象的。歌詞は人間の精神的な探求や自己の内面を掘り下げる内容で、哲学的なトーンが漂う。穏やかな部分と激しい部分が交錯し、曲に深みを与えている。
Deep
　「Deep」は、ファジーなギターサウンドと重いベースラインが特徴で、グランジ特有の重厚なムードを強調している。Vedderのボーカルは再び怒りを爆発させ、社会的な疎外感や自己破壊的なテーマを描いている。
Release
　「Release」は、アルバムのフィナーレを飾る壮大で感情的な楽曲。Vedderが亡き父への複雑な感情を歌っており、その心の痛みが静かに、しかし深く表現されている。ミニマルなギターとリズムが楽曲を支え、徐々に盛り上がりを見せる構成が聴く者を感動へと導く。

アルバム総評:

「Ten」は、Pearl Jamがその音楽的才能と情熱を最大限に発揮したデビュー作であり、90年代のロックシーンに大きな影響を与えた。Eddie Vedderの魂のこもった歌声とバンドの卓越した演奏が、社会的な疎外感、個人的な痛み、そして生きることへの葛藤を見事に表現している。特に「Alive」「Jeremy」「Black」といった楽曲は、グランジを超えてロック全体の名曲として広く認知されており、アルバム全体が持つ感情の強さと音楽的な深みは、リリースから30年以上経った今も色褪せることがない。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

Nevermind by Nirvana
グランジを象徴するアルバムで、Pearl Jamと同じく90年代のシアトルロックシーンを代表する作品。エネルギッシュで荒々しいサウンドが共通している。
Badmotorfinger by Soundgarden
グランジサウンドとヘヴィメタルの要素を融合させたアルバムで、力強いボーカルとリフが「Ten」に共鳴する。
Dirt by Alice in Chains
ヘヴィでダークなトーンが特徴のアルバム。Pearl Jamの深く感情的なサウンドが好きな人におすすめ。
Vs. by Pearl Jam
Pearl Jamの2枚目のアルバムで、よりエネルギッシュで攻撃的なサウンドを展開。グランジの枠を超えた音楽性が楽しめる。
Superunknown by Soundgarden
複雑なリフとダークな歌詞が特徴のアルバムで、90年代のオルタナティブロックを代表する作品。Pearl Jamのファンにも共鳴するサウンド。