発売日: 1980年9月5日
ジャンル: シンセポップ、ニューウェーブ、ポストパンク
孤独な未来都市のサウンド——Numan流ディストピアの完成
1980年、イギリスのシンセポップ／ニューウェーブのパイオニアGary Numanがリリースした3rdアルバムTelekonは、彼のキャリアの中でも特にダークでエモーショナルな作品だ。前作The Pleasure Principle（1979年）で確立したギターを排したシンセ主体のサウンドを継承しつつ、より内省的なテーマを取り入れ、彼独自の「テクノロジーと孤独」を描き出している。
このアルバムは、シンセポップの黎明期において、テクノロジーの進化と人間の感情の衝突をテーマにした先駆的な作品であり、Nine Inch NailsやDepeche Mode、The Human League、さらには現代のエレクトロ・インダストリアル系アーティストに多大な影響を与えた。
前作ほどのシングルヒットは生まれなかったものの、「We Are Glass」「I Die: You Die」といった楽曲はシングルカットされ、彼の代表曲のひとつとなった。また、本作ではギターが復活し、ポストパンク的な要素も強くなっている点が特徴的だ。これにより、ニューウェーブとエレクトロニカの橋渡し的なサウンドとなり、後のシンセポップ／インダストリアルの発展に寄与した。
全曲レビュー
1. This Wreckage
アルバムのオープニングを飾る楽曲で、重厚なシンセとダークなメロディが印象的。歌詞には「私を日本語で埋葬してくれ」というフレーズがあり、Numanの孤独と異世界への憧れを象徴している。アルバム全体のテーマを提示する重要な一曲。
2. The Aircrash Bureau
タイトルからも分かるように、機械と人間の関係性をテーマにした楽曲。緻密なシンセアレンジと浮遊感のあるメロディが、Numan流のディストピア的な世界観を表現している。
3. Telekon
アルバムのタイトル曲で、比較的ミニマルな構成ながら、メロディの美しさが際立つ。シンセの奥行きのあるサウンドスケープが、まるで未来都市の夜景を見下ろしているような感覚を生み出す。
4. Remind Me to Smile
前作『The Pleasure Principle』のエネルギーを受け継いだ、アップテンポな楽曲。タイトルとは裏腹に、成功の裏に潜む虚しさや、ファンやメディアへの皮肉が込められた歌詞が印象的だ。
5. Sleep by Windows
ダークなメロディとメカニカルなリズムが特徴的なナンバー。無機質なビートが続く中、Numanの冷めたボーカルが楽曲の寂寥感を際立たせている。
6. I’m an Agent
比較的キャッチーなメロディを持つ楽曲で、リズミカルなシンセベースが楽曲を支える。スパイや監視社会をテーマにしたような歌詞も興味深い。
7. I Dream of Wires
本作の中でも特に美しい楽曲のひとつ。「ワイヤーを夢見る」というタイトルが象徴するように、人間とテクノロジーの関係性を詩的に描いた内容になっている。静かなイントロから、徐々にシンセが絡み合っていく展開が印象的。
8. Remember I Was Vapour
冷たいビートとシンセサウンドが、まるで氷の上を滑るような感覚を生み出す。タイトル通り、存在が「蒸気（Vapour）」のように消えていく儚さを感じさせる楽曲。
9. Please Push No More
アルバムの中で最も静かで感情的な楽曲。ピアノとシンセが絡み合い、Numanのボーカルが珍しく繊細な感情を表現している。
10. The Joy Circuit
ラストを飾る壮大な楽曲。エレクトロニカとオーケストラ風のアレンジが融合し、未来都市の終焉を見届けるような雰囲気を持つ。アルバム全体を締めくくるにふさわしい、スケール感のあるトラック。
総評
Telekonは、Gary Numanがシンセポップの可能性を押し広げた作品であり、彼のキャリアの中でも特にダークでエモーショナルなアルバムである。前作『The Pleasure Principle』で示した機械的なサウンドに加え、本作ではより内省的なテーマと、ポストパンク的なアプローチが取り入れられ、シンセポップとニューウェーブの融合をさらに推し進めた。
また、機械的な冷たさの中に、孤独や不安といった人間的な感情が見え隠れするのがこのアルバムの魅力であり、Numanが単なるエレクトロミュージシャンではなく、アーティストとしての深みを持っていたことを証明している。
Nine Inch Nailsのトレント・レズナーをはじめ、多くのアーティストがこの作品から影響を受けており、後のインダストリアル・ロックやエレクトロ・ゴシックの原点のひとつとしても位置づけられる。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- David Bowie – Scary Monsters (and Super Creeps)（1980年）
ボウイのニューウェーブ期の名作。機械的なビートと人間的な感情の対比が、Telekonと共鳴する。 - Ultravox – Vienna（1980年）
シンセを前面に押し出したニューウェーブの名盤。Numanの影響を受けつつ、より叙情的なアプローチをとっている。 - Depeche Mode – Black Celebration（1986年）
ダークなシンセサウンドが魅力の作品。Numanの世界観と近く、より洗練されたサウンドが楽しめる。 - Nine Inch Nails – Pretty Hate Machine（1989年）
Numanの影響を受けたトレント・レズナーのデビュー作。インダストリアル・ロックの原点的作品。 - John Foxx – Metamatic（1980年）
Ultravoxの元ボーカルが作り上げた、Numanに匹敵するほどの冷たく未来的なシンセポップの名作。
Numanの持つ未来志向と内省的な世界観が見事に結実したTelekon。シンセポップ／ニューウェーブの金字塔として、今なお多くのファンに愛される作品である。
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