
1. 歌詞の概要
「Telecommunication」は、A Flock of Seagullsが1981年に発表したデビュー・アルバム『A Flock of Seagulls』に収録された、彼ら初期の代表作にして最も“未来派”な精神を体現した楽曲である。
タイトル通り、本作の主題は「通信」だが、ここで描かれるのは現代的な電話やインターネットといった技術ではない。むしろ、テレパシー、電波、周波数といった“超感覚的”かつ“宇宙的”なイメージのもとで、「人間の意識がいかにして相互接続されるか」という壮大なビジョンが展開される。
歌詞は断片的で抽象的ながら、ある種の“通信による超越”をめぐる思想がうっすらと浮かび上がる。人間の限界を超えようとする欲望、未来への期待、そしてその先に待つかもしれない孤独や無機質な感覚。それらが、SF的な語彙とエレクトロニックなサウンドに乗せて届けられる。
2. 歌詞のバックグラウンド
A Flock of Seagullsは、1980年代初頭のシンセポップ・ムーブメントにおいて、単なるファッション・バンドではなく「未来的音像の構築」を真摯に探求した存在である。とりわけ「Telecommunication」は、その志向性を最も強く示す楽曲であり、SF的で実験的なコンセプトと、エッジの効いたサウンドが融合している。
本楽曲は、1981年にシングルとしてリリースされ、UKチャートではトップ40入りを果たす。のちに同年のデビューアルバムにも収録され、より多くのリスナーに知られることになった。
バンドは「科学と感情」「電気と意識」という二項の融合に強い関心を持っており、「Telecommunication」はその探求の試金石だったと言える。つまり、ただの機械的ビートではなく、「テクノロジーを通じて人間の在り方を再考する」というポストモダン的なテーマが、この曲には明確に刻まれているのだ。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、歌詞の印象的なフレーズを抜粋し、和訳を添えて紹介する。全歌詞はこちら(Genius Lyrics)を参照。
Ultra violet… radio light
紫外線、ラジオの光
To your solar system, on a beam of light
君の太陽系へ、光のビームで向かっていく
Telecommunication
テレコミュニケーション
In the distance… far away
遥か彼方のその先に
ここに登場する言葉の数々は、科学技術の語彙でありながら、どこか詩的な響きを持つ。歌詞全体にストーリー性はなく、むしろ断片的な“映像”や“信号”が音楽とともに浮かび上がる構造になっている。
Electric pulses in my mind
電気信号が僕の脳内を駆け巡る
Telecommunication
通信、それは意識をつなぐもの
このラインは、人間の感情や記憶さえも、電気的な“パルス”として扱われるという発想を提示する。つまり、感情までもがデジタル化され、伝送されうる未来を暗示している。
4. 歌詞の考察
「Telecommunication」は、1980年代初頭のテクノロジーに対する“畏怖と期待”がそのまま音楽に変換されたような作品である。ここにあるのは「電話」や「メッセージ」のやりとりではなく、“宇宙規模での意識の接続”という、まるでフィリップ・K・ディックやアーサー・C・クラークのようなビジョンだ。
歌詞は物語を語らない。ただ電磁波、光線、脳波、太陽系、電子脈動など、感覚を刺激するイメージの洪水が次々と押し寄せる。この構成は、まるで短波ラジオのチューニングを繰り返しているかのようであり、言葉の意味よりも「響き」が優先されているようにすら感じられる。
また、愛や哀しみといった感情語が一切登場しない点も注目に値する。これは「感情の否定」ではなく、「感情の機械化」あるいは「非人間的な媒体による伝達」を前提とした視座であり、1980年代的な“情報のロマン”が、シンセポップという形式と見事に合致した例と言える。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Warm Leatherette by The Normal
テクノロジーと肉体の暴力的融合を描く、エレクトロパンクの原点。 - Electricity by Orchestral Manoeuvres in the Dark
人間の生命力をエネルギーとして再定義する、知的エレポップ。 - Are ‘Friends’ Electric? by Tubeway Army
人間関係すらプログラム可能と見なす、80年代的な機械論的世界観。 - Radioactivity by Kraftwerk
放射線と情報が交錯する、電子音楽の厳粛なテクスト。 - Numbers by Kraftwerk
言葉がコード化され、意味を失っていく過程を冷徹に描くエレクトロの極北。
6. 人間と機械、詩と電波の間にある未来のうた
「Telecommunication」は、愛や憂い、悲しみではなく、「情報」にロマンを見出した音楽である。だがその冷たさの中に、逆説的に“感情を持った機械”のような人間像が立ち現れる。
言葉の意味が希薄になる時代。触れ合えない距離の中で、僕たちは何を「伝える」のか? あるいは、どんな形でなら「繋がる」と言えるのか? その問いがこの楽曲には響いている。
テレコミュニケーション——それは、1980年代における“未来”の象徴であり、今を生きる我々にとっては、すでに当たり前のものとなった。しかし、A Flock of Seagullsはその黎明期に、「通信とは何か?」という問いを、美しくも冷徹に、音楽という形で提示していたのだ。
未来を夢見たその電子の詩は、今なお、耳の奥でざわめき続けている。
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