発売日: 2017年4月21日
ジャンル: ダンス・ポップ、シンセ・ポップ、ユーロポップ
概要
『Tears on the Dancefloor』は、Stepsが再結成後に発表した本格的なダンス・ポップアルバムであり、
グループのルーツを現代的な音像で再構築した快作である。
2000年代の中断を経て、2012年にカムバックを果たした彼らだったが、
このアルバムではついに「懐メロ再生産」ではなく、“今”のポップシーンに向けた強い意志を打ち出した。
プロデュースには、The SaturdaysやLittle Mixを手がけたプロフェッショナルが多数参加。
音楽的にも視覚的にも、90年代〜2000年代の美学をアップデートしたサウンドとなっており、
中毒性のあるメロディ、煌びやかなビート、感情を含んだリリックが三位一体で構成されたダンスアルバムとして完成している。
全曲レビュー
Scared of the Dark
アルバム冒頭を飾るパワフルなリード曲。
壮大なストリングスとシンセの融合はABBAやユーロビートの影響を感じさせつつ、
「闇を恐れないで」というメッセージに現代的な勇気と共感が込められている。
ダンス・フロアを涙で濡らすというアルバムタイトルの世界観を端的に示す楽曲。
You Make Me Whole
エレクトロハウスの影響を受けたアグレッシブなトラック。
細やかなビートと光のようなサビが印象的で、
愛によって自分が“完全になる”というテーマを文字通りダンサブルに描き出す。
Story of a Heart
ABBAのBenny & Björnによる書き下ろし曲。
スウェディッシュ・ポップの伝統が息づくメロディで、
“かつての愛”を振り返りながらも未来に歩み出す視線が感じられる、アルバム中もっとも抒情的な一曲。
Happy
失恋をテーマにしながらも、曲調はあくまで明るくポジティブ。
「悲しみは通り過ぎる」という前向きな視点が、
Stepsの変わらぬ明るさと、再結成後の成熟したポジティブさを共存させている。
No More Tears on the Dancefloor
アルバムタイトルを冠したこの曲は、“悲しみを踊りながら吹き飛ばす”というStepsの核を象徴。
ダンスという行為をエモーションの昇華と捉えた、哲学的でもあるダンスポップ。
Dancing with a Broken Heart
オーストラリアの歌姫Delta Goodremのカバー。
原曲の繊細さを保ちつつ、よりビートを強調し、ステージ映えする構成に再構築。
“心が壊れても踊り続ける”というテーマが、アルバム全体の空気感と響き合う。
Firefly
90年代感のあるシンセとサイドチェインを効かせたプロダクション。
ラヴソングというよりも、光に導かれる旅路のような印象を持つ曲で、幻想的な構成が異彩を放つ。
Space Between Us
ストレートなラブバラード。
ビートは抑えめだが、距離と想いのあいだにある“言葉にならない感情”を、歌とハーモニーで丁寧に描いている。
Glitter & Gold
煌めくタイトル通り、希望と華やかさを携えたアンセム的ナンバー。
“私たちの輝きは誰にも奪えない”というメッセージが力強い。
ライブの終盤や祝祭の場にぴったりの一曲。
I Will Love Again
Lara Fabianの大ヒット曲を、ダンス仕様にリミックスしたような新たな解釈でカバー。
自己肯定と再生の物語が、アルバムの締めくくりとしてふさわしい感動を残す。
総評
『Tears on the Dancefloor』は、再結成グループが“懐メロ”ではなく“進化形”として存在するための、理想的なモデルケースである。
懐かしさに甘えることなく、
過去の自分たちを再解釈し、今の音楽シーンに誠実に呼応するという姿勢が、全編にわたって感じられる。
本作が示したのは、ポップ・グループが年齢を重ねながらも“楽しい”を再定義できるという可能性である。
それは「年齢を重ねたファンにも踊る理由を与える」音楽であり、
「涙すらもビートに乗せて輝かせる」手段なのだ。
煌びやかで、感傷的で、熱くて、そして優しい。
『Tears on the Dancefloor』は、そんなStepsのすべてが詰まったアルバムである。
おすすめアルバム(5枚)
- ABBA『The Visitors』
ポップの華やかさと内省的メロディの融合という観点から親和性が高い。 - Kylie Minogue『Disco』
ディスコとエレクトロを現代に再生した好例。Stepsの志向と重なる。 - Pet Shop Boys『Super』
シンセ・ポップの熟成と再起を象徴する作品。 - Little Mix『Glory Days』
女性ヴォーカル・グループによるパワフルなポップアルバムとして並列的。 -
Cher『Dancing Queen』
往年の名曲をダンス・ポップとして再構築するという意味で共鳴点がある。
9. 後続作品とのつながり
この『Tears on the Dancefloor』によって、Stepsは再結成後のアイデンティティを明確に確立することができた。
2021年の次作『What the Future Holds』では、本作で培われた**“現代的ダンス・ポップと感情の融合”というスタイルがさらに深化**し、
叙情性と力強さを増した構成となっている。
『Tears〜』で蒔かれた“希望と涙”の種は、確実にその後のStepsを支える基盤となっている。
つまりこのアルバムは、過去の総決算ではなく、未来への序章だったのだ。
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