アルバムレビュー：Talk Talk Talk by The Psychedelic Furs

発売日: 1981年5月15日
ジャンル: ポストパンク、ニューウェーブ、アートロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Talk Talk Talk』は、The Psychedelic Fursによる2作目のスタジオ・アルバムであり、1981年にリリースされたこの作品は、バンドの芸術性とポップセンスの劇的な開花を示す重要作である。

前作『The Psychedelic Furs』の粗削りなポストパンク・エネルギーに比べ、本作ではサウンドの解像度が格段に向上し、リチャード・バトラーのダミ声ヴォーカル、陰影あるメロディ、文学的リリックがより鮮明に響くようになった。

プロデュースはスティーヴ・リリーホワイトに代わり、フィル・ソーントンとイアン・テイラーが担当。
これにより音像はクリアになり、サックス、ギター、ベース、ドラム、キーボードがそれぞれの役割を明確に担いつつ、有機的に絡み合っていく。

また、「Pretty in Pink」が後年映画タイトルとして使われたことにより、バンドの代表曲として知られるようになり、本作は彼らの最初の文化的・商業的ブレイクスルーともなった。

全曲レビュー

1. Dumb Waiters

オープニングから攻撃的なサックスとギターが炸裂する、狂騒的アートパンク。
タイトルの“給仕”には、社会的従属や階層構造への皮肉が込められており、バトラーの歌声も怒りに満ちている。
無秩序なようで緻密な構成が光る。

2. Pretty in Pink

アルバムの中でも最も知られた代表曲。
恋愛と性、階級と虚構を織り交ぜたリリックは、ロマンティックでありながら痛烈な批評性を内包。
サビのメロディは切なくもキャッチーで、アメリカの青春映画文化と結びつく象徴的な楽曲となった。

3. I Wanna Sleep with You

欲望をストレートに表明するタイトルだが、どこか空虚で切迫した響き。
ギターリフとタイトなドラムが引っ張る中、バトラーの歌唱はむしろアンチ・セクシャルな熱を帯びている。

4. No Tears

アングルの鋭いギターとクールなベースが印象的なダーク・ポップ。
“涙を見せない”という表現に込められた抑圧と冷淡が、1980年代初頭の都市の孤独を体現している。

5. Mr. Jones

社会的な疎外と自己喪失をテーマにした、不穏な疾走感を持つトラック。
サックスの鳴き声が、登場人物“ジョーンズ氏”の哀れな肖像を浮かび上がらせる。
構成はシンプルながら深い。

6. Into You Like a Train

高速で反復するギターとドラムが支配する、スリリングなナンバー。
恋愛の激しさと破滅性を“列車”という比喩で表現しており、欲望と恐怖が同時に迫ってくるような切迫感がある。

7. It Goes On

「それは続いていく」という繰り返しが、時間と記憶の残酷さを静かに響かせる。
バラード調でありながら、重力のように沈んでいく情感が胸を締め付ける。
後年のFursの内省的な側面の原点とも言える曲。

8. So Run Down

泥酔した都市の風景、あるいは感情の麻痺状態を描いたミッドテンポのナンバー。
メロディは中毒性があり、サックスとギターが空間を裂くように鳴る。

9. All of This and Nothing

リリカルかつ耽美なサウンド。
“すべてがあって、何もない”という矛盾を抱えるタイトルが、ポストモダン的な空虚さを象徴。
静かな絶望を美しく包み込んだ、アルバム屈指の詩的トラック。

10. She Is Mine

アルバムのラストを飾る、ゆったりとしたテンポのラブソング。
ただしその“所有”は、愛というよりも孤独の隣人のようで、バトラーのボーカルには終末的な響きが宿る。

総評

『Talk Talk Talk』は、The Psychedelic Fursが初期の荒々しい美学を脱し、より明確な音楽的・文学的アイデンティティを確立したマイルストーン的作品である。

本作には、ポストパンクの知的冷徹さと、ニューウェーブのメロディアスな親しみやすさが絶妙に共存しており、それは“破滅的な青春の叙事詩”として現在でも鮮やかに響く。

特にリチャード・バトラーのボーカルとリリックは、ここで一段と洗練され、愛や性、都市生活、社会制度といったテーマに鋭く切り込む“詩人としての声”として輪郭を持ち始めている。

このアルバムをもって、The Psychedelic Fursは“気怠くロマンティックなアートロックの旗手”としての道を本格的に歩み始めたのだ。